『上海フリータクシー』 フランク・ラングフィット
アメリカのラジオ局の特派員として上海に赴任したフランクは、本当の中国人の声を聞いてみたいと思っていました。でも、外国人の自分と中国の普通の人との接点をどうやって見つけようか?と考え、一つのアイデアがひらめきました。無料のタクシーがあれば、それを利用してくれる人がいるんじゃないか?タクシーの運転手とだったら気楽に話をしてくれるんじゃないか?
2014年6月、タクシーとして使うために中古車のカムリを購入し、「無料のタクシー」と書いたシートを車に貼って町を流し始めました。
いろんな人が車に乗ってくれました。そしていろんな話をしてくれました。病院へ薬をもらいに行くために乗った老夫妻。会社へ出勤するために乗ってくれた外車のディーラーの人。そんな短距離の利用の人もいれば、田舎で結婚式があるので、そこまで乗せて欲しいという、とんでもない長距離のお客さんもいました。
豊かになった中国の人たちの価値観の変わり方が余りにも急速過ぎて、都会と田舎のいろんな意味での格差が凄いのだなということが、様々なシーンで明らかになっています。
タクシーに乗っている間の話もいろいろでしたけど、お客さんだった人たちのその後の人生を追っかけてインタビューしている部分も興味深いです。
中国には民主主義がないことを憂いアメリカに渡った女性が、トランプ政権になってしまい、外国人に圧力をかけるアメリカに失望してしまった話は衝撃的でした。わたしはどこへ行っても抑圧される存在なのかと嘆きながらも、自分の場所を探し続けるのは辛いです。
その後、彼女は深圳に移り住み香港で働いているということなのですが、再び失望の火種が生まれた場所で、彼女はどう生きているのかが気になります。
中国の普通の人の話を聞きにいった著者は、いい人にも悪い人にも会い、親切にされることもあったし、いろんな矛盾にも出会い、アメリカとは全く違う国の様々な部分を知りました。異邦人だからこそ聞き出せた話というのもあったでしょう。それをこうやって出版することによって、外の世界へ知らせることができたのは素晴らしいことだと思います。
中国とアメリカは、これからどういう関係を築いていくのでしょうか?
結局わかり合えませんでしたで済ますことはできない時代が来ていると思うのですが、そんなことはお構いなしの国で暮らしていくのは辛いなぁ。その間に挟まれた場所で暮らすのも辛いなぁ。
石田衣良さんのポッドキャスト「大人の放課後ラジオ」の41回放送の「コロナ禍で読んだ心にしみる本」で紹介されていたので、気になって読んでみました。衣良さんがイチオシというだけあって、中国という国について考えるところが多い本でした。
1971冊目(今年276冊目)
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