『護られなかった者たちへ』 中山七里
仙台市の保健福祉事務所課長・三雲忠勝が、手足や口の自由を奪われた状態の餓死死体で発見された。三雲は公私ともに人格者として知られ怨恨が理由とは考えにくい。一方、物盗りによる犯行の可能性も低く、捜査は暗礁に乗り上げる。(書籍紹介より)
この物語の根底にあるのは生活保護を受けたくても受けられない人たちが大勢いるという事実です。生活保護を申請するには、自分には財産がなく、頼れる身寄りもないということを証明しなければなりません。でも、財産がないということを証明するのはとても難しいのです。
もし持ち家や車があれば、売ってお金にしなさいというところから話が始まります。もし兄弟や親戚がいれば、その人たちから援助してもらえないのかと聞かれます。そんなこと言ったって、もう何十年も音信不通になっていて、どこにいるのか、死んでしまったのかすらわからないのに、どうやって連絡を取れというのでしょう。でも福祉保健事務所の人はそういうのです。
そんな役所仕事に腹を立てた利根は、福祉保険事務所で暴れ、更に事務所の一部に火をつけたという犯罪で刑務所に入っていました。その彼が出所し、誰かを探しているようなのです。一方、警察は殺人事件の容疑者として、彼の行方を追っていたのです。
刑務所でどんなに頑張っても、出所してから仕事を探すのは困難で、結局悪い方へ引っ張られてしまう人が多いというのも、辛い現実です。
利根は決して悪い人間ではないのに、生きづらい人生になってしまったのは環境に恵まれなかったからで済ませてしまったら、余りにも酷い話だと思います。
社会弱者を助けてくれない世間や役所、様々な問題を考えるきっかけとなる作品だと思いました。「護られなかった者」が増え続ける今だからこそ、こういうテーマは重く感じます。
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