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『愛と性と存在のはなし』 赤坂真理

愛と性と存在のはなし

赤坂真理(あかさか まり)

NHK出版新書

NetGalleyJP

 「セクシャル・マイノリティ」「LGBT」「性同一性障害」「セクハラ」などの言葉を毎日のように目にし、耳にしています。

 「そんな人に出会ったことがない」と発言して、大炎上してしまった地方議員のあの人は、あの後そういう人たちと会ってみたのだろうか?見たことがないから信じないというなら、一度会って話をしてみたらいいのに。自分がいかに無知なのかを知ることになるのが怖いから、そんなことはできないのだろうか?

 

すべての人は、性同一性障害を持つ。(本文より)

 「男の身体で女の心」「女の身体で男の心」それが性同一性障害と定義されているけれど、それだけでは分類しきれない意識を持っている人が多くいると著者は言っています。この定義だけだったら「男の身体で女の心」の人は、身体も女にして、心も身体も女になって男を愛するという方程式しかありません。でも、そうじゃない人もいるんです。

 例えば著者の友人のMは、男の身体を持って生まれてきて、今はホルモン治療で女の身体に変わりつつあるけれど、愛する対象は女。つまり男の身体で生まれてきたレズビアンだというのです。そういえば、女性装の大学教授も似たような、でも違うことを言っていましたね。「身体は男のままだけれど、女性装をして、女性的な心を持って女性を愛する」のだと。

 心と身体の問題は、とてつもなく複雑なのです。彼らのように自分のことを理解できた人は幸せです。それがわからなくて右往左往している人が世の中のほとんどなのですから。

 

マジョリティの問題を照らし出すのはマイノリティであり、マイノリティに希望を託すのはマジョリティである。
マジョリティは、そうしないと、うっすらとある自身の違和感に気づけないからだ。

 自分は普通じゃないという疑いを持っていながら、それを隠して生きている人は、誰にも言えないだけでなく、自分のことをずっと嫌悪しながら生き続けなければなりません。マジョリティであるふりをして生きている人が、マイノリティの存在によって、自分の問題を気付けるというのが、不思議な所なのです。そして、変わっているのは自分だけじゃないんだと安堵するのです。

 

よく言われるように、薬物やアルコールの依存症になると生きるのがタイヘンになるのではなく、それ以前に、まずは生きづらくてそれらを始めたのだ。だから、「薬物乱用は止まったが自殺した依存症者」というのが多く存在する。生きづらさの根っこは変わらない。依存症者は薬物を用いてでも、生きようとしていた。耐えがたさと折り合おうとしていた。

 依存症を見事に分析していますね。何かから逃れたいから依存するのです。とてつもなく大きな力から逃れたいけれど、逃れられないから現実逃避するんです。だから依存する何かを取り上げられてしまったら、辛さと向き合わなければならなくなるのです。そして自殺してしまう。そのまま依存症をやめられなかったら、その依存しているものに殺されてしまう。

 

 現象だけを取り上げて批判することは簡単だけど、その原因を考えてみると実は辛い事実があるのは、性の問題も依存の問題も同じです。赤坂さんがこの本の中で語っている「違和感」のいずれもが、面倒くさいけれども避けていてはいけないものだったんだなと感じました。

#愛と性と存在のはなし #NetGalleyJP 

1972冊目(今年277冊目)

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