『ライフ』 小野寺史宜
井川幹太は筧ハイツのA棟102号室に住んでます。大学を出てから就職はしたけれど、数年で辞めてしまって、今は近くのコンビニでバイトをしています。それともう一つ、結婚式の代理出席のバイトも、短時間だし割のいいバイトだけど、自分ではない誰かに成りすまさなければならないのがちょっと大変。でも、月に数回くらい行っています。
2階の人の足音や生活音がうるさくて気になっていて、苦情を言いたいけど怖い人だったらやだなぁって思って声を掛けらずにいたんだけど、その当人の戸田さんにいきなり出会ってしまって焦ったけど、話してみるとそんなに悪い人じゃないみたい。
幹太くんは27歳、母親は早く正社員の仕事につけと言ってくるけれど、どうもそんな気になれないんです。働くのが嫌いって訳じゃないけど、自分がやりたいことってのが見つからないなぁって感じです。
好きな人と上手くやっていける人もいれば、好きなのに上手くやっていけない人もいる。同じアパートに住んでいる人なのに顔を知らなかったり、バイト先でいい人に会ったり、嫌な人に会ったり。日常ってそんなことの繰り返しなんですよね。
筧ハイツに住む人の話を読むのはこれで「ひと」「まち」「縁」に次いで4作目です。それぞれに色んな人生があって、淡々と生きているんだけど、それぞれの人生の選択がいろいろあって面白いなと思います。
共通しているのは川が好きで、土手を散歩するのが好きというところですね。休みの日には図書館へ本を借りに行って、図書館の近くの喫茶店で一休みするんだけど、生活パターンが違うからすれ違うことはないのね。でも、何故か読んでいる本の作家は同じ「横尾成吾」です。新作では、この横尾さんが主人公らしいので、こっちも読んでみようっと。
平井が舞台なので、あの図書館とか、あの牛丼屋さんとか、何となくわかっちゃいますよ。最後に幹太くんが応募してみようと思ったパン工場。あそこはおいしいパンを焼いてるから、就職できるといいね。そこでの話もよんでみたいなぁ。
ひとつだけ気になったところがあって、国道沿いの駐車場がある牛丼屋って表現してたけど、この辺りの人たちは「国道」って言い方はしないんです。そもそも国道とか都道とかって観念がないし、みんな通りの名前で呼ぶから、ここの場合だったら「京葉道路」だなぁ。
P.S. A102号室には『ライフ』の井川幹太、B102号室には『縁』の室屋忠仁、B201号室には『まち』の江藤瞬一が住んでいる。
1997冊目(今年17冊目)
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