『駆け込み寺の男 玄秀盛』 佐々涼子
玄の歌舞伎町駆け込み寺の一番の特徴は、被害者だけではなく、加害者になる可能性のある人とも話をすることだ。玄は、日ごろから思っていた。被害者をケアしただけでは根本的な解決にはならない。だから被害者の女性が逃げる時には、必ず駆け込み寺のパンフレットを加害者の所へ置いてように指導した。そして怒鳴り込んでくる男と話し、男の胸の内を聞いてやった。被害者だけではなく加害者のケアをする、このような場所は日本にはない。(本文より)
玄さんは新宿の歌舞伎町で、金・暴力・仕事など、様々な悩みを抱えた人の「駆け込み寺」をやっています。彼がスゴイのは、助けてくださいと駆け込んできた人の話を聞いた後、ズバリ現状の説明をしてくれるところなのです。「あんたに暴力をふるうような男から徹底的に逃げようと思っていのか?」「とんでもない親と縁を切る覚悟はあるのか?」その覚悟がなかったら、元の生活の繰り返しになってしまう。それでいいのか?
そこまでの覚悟を決めた人のことは、きっちりと守ってくれるのです。怪我をしていたら違法在留者でも診てくれる医者を紹介してくれるし、とりあえず暮らす場所も、仕事だって紹介してくれます。でも、相談の内容の実行が無理な時だってあります。そんな時は、それがどうして無理なのかをきちん納得できるまで説明してくれます。
「あんたが頼っとんのはただの補助輪やで。輪っかなしで自転車乗れたほうがよっぽど楽しいわな。もっとずっと自由やで。早くその境地にならなぁかんで。」
~中略~
「依存なしで生きていくことでどれだけ自由になれるか、みんな早く気づかな。」
玄がしているのは、補助輪は取れる。とただ言い切ってやることだけなのかもしれない。
人は何かに依存します。依存するものは酒だったり、金だったり、薬だったり、でも一番危険な依存は「人」です。本当はただのヒモなのに愛されてると思っていたり。どんなに酷い親でも、親なんだから大事にしなければと信じ込んでしまったり。その依存から脱出するには勇気がいります。どう脱出すればいいのか分からない人がほとんどです。そして、自分が依存しているということに気づいていない人もいます。
だからこの駆け込み寺が必要なんだと玄さんは信じています。そして、彼らが依存から脱出するありとあらゆる手立てを教えてくれるのです。実際には背中を押してあげるだけということもあるんですけどね。
(阪神淡路大震災のとき)ほかの地域から人を選んできたのでは被災地には何の利益もないけれど、長田区で人を募ったので、地元にカネが落ちた。雇った人たちには、ほんとうにすごく喜ばれましたよ。無一文で焼け出されて仕事を失っていた人たちがたくさんいたんですから。
長田区の復興のために玄さんは働いていました。仕事も住むところもない人たちを救うために何をしたらいいのか、一番良くわかっている人だったのでしょうね。役所仕事では到底できない、現実的な仕事をしていたのです。
玄さんは、子ども時代に愛を知らずに大きくなりました。とんでもない父親と母親、どちらからも暴力を振るわれ、どうやってこの親から逃げるかばかりを考えて大きくなったのです。親のせいで転校も多く、友達もいない。どんな環境に置かれても生きていくためにはどうすればいいのかを必死に考え続けてきたのです。
悪いこともたくさんしてきたらしいです。真面目に職人になろうとしたこともあります。どんな時でも一貫していたのは、必死に考え、技を盗み、誰からも蔑まれることなく生きていこうとしていたということです。
怖い人であるのも確かだけど、本当の意味での優しい人なんだと思います。ダメなものはダメとはっきり言うことで、当人に現実を自覚させるという玄さんのやり方は、現実的な優しさから生まれるものなのだと、わたしは感じました。
こんな人がいるということが、何だか奇跡のような気がします。この本を書いた佐々さんがその後活躍されているのも、やはり玄さんの存在が大きいのだなと思うのです。
いつだって、悩みを抱えた人は大勢います。その悩みを誰かに聞いてもらうだけでも救われる人がいます。ちょっと背中を押してもらうだけでも人生を変えられるのだと、玄さんは教え続けてくれるのでしょうね。
1999冊目(今年19冊目)
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