『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている』 佐々涼子
2011年3月11日、日本製紙石巻工場は津波に呑み込まれた。本の紙の供給にはなくてはならない工場だ。閉鎖が噂されるほどの壊滅的被害だったが、工場長は半年での復興を宣言。その日から、従業員の壮絶な戦いが始まった。(書籍紹介より)
大きな津波の被害を受けた日本製紙石巻工場は、もうダメだ、工場はなくなると思った人たちが大勢いました。でも、工場長は絶対に復興すると決断したのです。それも、1年2年というような単位では、みんなの気持ちがもたない、ましてや他所の人たちは自分たちのことを忘れてしまう。だから半年で何とかするのだ!というタイムリミットをつくったのです。
泥水に浸かってしまった印刷機を復旧するには、とにかく人力なのです。工場に流れてきてしまった瓦礫や車をどけ、泥を運び出しました。来る日も来る日も同じ作業が続きます。それでも頑張れたのは、この工場は我が家なのだと思う気持ちが大きかったのです。
みんな家を失い、家族を失い、どうしていいかわからない状態でした。今は片付けしかできないけれど、その先にある目標があるから頑張ろうという気持ちで何とか耐えていました。
この工場の製品である大きな巻紙(トイレットペーパーのような形状で、重さは800kgもある)がどこかの家に流れ着いていたといえば、それを回収にも行きました。といっても、巻紙だけがあるわけではないので、その周りにあった車や瓦礫などもまとめて片付けていたのだそうです。その作業をしていたのは日本製紙の関連会社の人達です。この仕事があったおかげで給料が払われ、お金の不安から助けてもらったと作業していた人たちが証言しています。
この工場では様々な出版社で使用する紙を作っていました。ここの紙がなくなったら日本中の出版社が困るのだから、がんばらなければならないということもモチベーションを保つのに大事なことだったそうです。
ゴミを片付けて、いよいよ印刷機の修理です。水に浸かってしまっただけでも大変なことなのに、津波ですから塩水です。更に大変な洗浄作業が必要でした。様々な知恵を絞り、ひとつひとつ丁寧に洗浄していったのです。
そして、印刷機は稼働し始めたのです。
津波で何もかも失くしてしまった人も大勢いました。でも、生き残っただけでも幸運だったという証言がいくつもありました。苦しい時に見ず知らずの人に親切にしてもらったり、助けてもらったりしたこともありました。
逆に、略奪や詐欺などをする酷い人たちも大勢いました。復興とともに酷い人たちはどこかへ行ってしまったけれど、ああいう時に人間の本性が出るんだねと言っている人もいました。
こういう記録は本当に大事だと思います。今まで体験したことがないようなとんでもない事態になったとき、人間はどうあるべきなのかを考えさせられます。苦しくても、悲しくても、生き続けていくしかない。それが残されたものの使命なのだと心に刻みました。
この本の最後に、使用している紙は「石巻8マシン文庫用紙(日本製紙石巻工場8号抄紙機)」と書かれていました。この本もあの人たちのお陰で生き返った印刷機で作られた紙でできているのだと思うと、愛おしく思えてくるのでした。
援助物資の中に本があって「この時期、本が必要だった」ということばにドキッとしました。本が持つ力、その本を作る紙を作る人の努力、そういうものが人間を生かしていくのですね。
1983冊目(今年3冊目)
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