『走れ!移動図書館』 鎌倉幸子
著者は「公益社団法人シャンティ国際ボランティア会」に所属し、カンボジアの移動図書館の運営に尽力されてきました。1995の阪神・淡路大震災以降は、日本の災害現場での緊急支援の活動もなさっています。
東日本大震災の津波ですべてを流されてしまい、避難所や仮設住宅で暮らす人たちに必要なものとして、食料や衣類などはすぐに渡されましたが、少し落ち着いてきた段階で足りないものそれは、「楽しさ」や「心を癒すもの」でした。その一つとして本が大事だと考え、移動図書館を稼働させようということになったのです。
(東京から来た団体が)「移動図書館です」といって仮設住宅団地に訪れて、次回天気が悪いからやめた、というのはやめてください。p86
移動図書館を設営する場所を交渉するにあたって、現地の方から言われたのがこの言葉です。一度来ると決めたなら、必ず来てください。みんな期待を持って待っているのです。それを裏切るようなことはしないで欲しいというのです。
いいことをしているんだから、それでいいじゃないという軽い気持ちではダメなんです。移動図書館が必要ではなくなる日までずっと続けるという強い気持ちを持たなければ、できないことなんです。鎌倉さんたちはそれを肝に銘じて活動をし続けてらっしゃいます。
本を「もらう」のではなく「借りる」ことは、借りたものはきちんと返す、期限と言う約束を守る、みんなで共通に使うものはたいせつに扱うという、日常の生活に戻る訓練になると考えてくれたようです。p68
避難所などで、モノをもらうばかりの生活をしていて、子どもたちに「もらってあたりまえ」の気持ちしかなくなってしまったら困るということなんですね。日常に戻るということは、買うこともあれば、借りることもある。貸すこともある。そういう当たり前のルールを知るためにも、移動図書館はお役に立っていたのです。こういう視点って、なかなか気づけないことだと思います。
岩手を走る!移動図書館プロジェクト 立ち読み、お茶のみ、おたのしみp129
本を読むことだけでなく、そこに集まること。誰かとお茶を飲みながら話をしたり、朗読会や紙芝居を楽しんだり、小さな幸せを作るって大切なことですね。
移動図書館を始めた直後、利用者の方が口々に、「自分で選べるって、こんなに幸せなことだったのか」と話してくれました。避難所では、物資の配布は受けられても、なかなか自分では選べないもの。選べたとしても遠慮して結局手に取らなかった人も、自分で選んだ本を、自分の選んだペースで読めることで日常性を取り戻していく、そんな気分になれるという話でした。p198
様々な物を頂けるというのは、ありがたいことだけれど、それだけでは不足してしまうことがあります。自分の好き嫌いや、自分のペースを遠慮なく取り戻すことができるって、人間として大事なことなのです。それこそが自由であるということなのです。
移動図書館は、本を届けるだけでなく、人とのつながりや、個人の尊厳を守るものでもあるのです。大きな図書館を作ることとは別の次元で、こういう活動の大事さに気づかせてくれる本でした。
2026冊目(今年46冊目)
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