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『色のない島へ 脳神経科医のミクロネシア探訪記』オリバー・サックス

色のない島へ 脳神経科医のミクロネシア探訪記
The Island of The Colorblind 

オリバー・サックス
Oliver Sacks

英国

先天的に色彩感覚をもたずモノトーンの視覚世界で暮らす人々がいるピンゲラップ島とポーンペイ島。原因不明の神経病が多発するグアム島とロタ島―脳神経科医のサックス博士はミクロネシアの閉ざされた島々に残る風土病の調査に訪れる。島の歴史や生活習慣を探るうちに難病の原因に関わる思いがけない仮説が浮かび上がるのだが…。美しく豊かな自然とそこで暮らす人々の生命力を力強く描く感動の探訪記。(書籍紹介より)

 脳神経科医のサックス博士は、特定の病気の人が非常に多く住むという島々に興味を持ったのです。全色盲は、際立った色覚異常と弱視をきたす、10万人に1人程度にしか見られない希な遺伝病です。この因子を持つ人は1000人に1人程度ですが、この病気は劣性遺伝なので、両親の両方がこの因子を持っていて初めて発生するものなのです。しかし小さな島の場合、1人でもこの因子を持っていると、子孫の世代で保因者同士が結婚する確率が高くなるのです。

 サックス博士は、島を訪れるにあたって、全色盲の友人を誘っていました。全色盲の人は強い光が苦手なので、この友人はサングラスとサンバイザーを大量に持ってきました。そして島の人たちに渡したのです。すると、みんな口を揃えて言うのです。サングラスやサンバイザーをかけたら昼間でも歩けると。それまで彼らは強い日差しが照らす昼間は、表を歩けなかったのだそうです。

先天的全色盲は、色彩だけの問題ではなく、もっと苦しいのは、光に過敏なことからくる痛みと、視力が鈍いことだという。

 その代わりに夜になると、がぜん彼らは能力を発揮し出すのです。通常の視力を持つ人には真っ暗にしか思えないような暗闇の中で、彼らは微妙な色を見分けることができるのです。

 原因不明の神経病、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症とも違う、身体が動かなくなる病気の人が多い島で、大勢の患者たちとサックス博士は話をします。そこで見つけたのは、彼らは自分たちから話し出すことはないけれど、こちらから話しかけるとスムーズに話ができるのです。紙を丸めてボールにして投げるとちゃんと受取り、投げ返すこともできます。同居している子どもたちはそれを見てビックリしました。この病気の特徴は自発的に動作ができないのだが反応はできるということを、彼らは気付いていなかったのです。

 身体が思うように動かない患者たちは、ほとんどの人が家族と一緒に暮らしています。そして昼間の間は家の前に置かれた椅子に座って、人が歩く姿を眺めているのです。そして、それを楽しんでいるようなのです。

 この病気の原因ははっきりしないし、これと言った治療方法もないけれど、島の人達はそれを不幸とは思っていないのです。この島に生まれ、こういう病気になるのも運命だと思っているのかもしれません。

 同じような症状の人が都会にいたら、病院にいたり、様々な治療を受けたりはできるけれど、外の世界からは遮断されてしまうことが多いのに、島の人たちは家族と共に暮らし、外に出ることができる。それは人間として、とても幸せなことなのだと感じるのです。

2018冊目(今年38冊目)

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