『転職の魔王様』 額賀澪
千晴さんは一流の広告代理店に就職したのですが、そこでの生活が辛くて辛くてしょうがなかったのです。どんなに頑張っても評価されないことに耐え切れなくなって辞めました。叔母の洋子さんに就職の相談をしたら、じゃぁ、しばらくウチの会社で働いてみたら?と言われて、キャリアアドバイザーの仕事をすることになりました。
そこでの上司である来栖さんは、キャリアアドバイザーのイメージとは程遠い、クールな感じの人でした。社内では「転職の魔王様」と呼ばれていて、就職の相談にやってくる人たちに千晴さんから見ればキツイ言葉を放つのです。
未経験業界に行けるのは二十五歳まで、三十五歳が転職限界年齢なんて言われています。ちなみに、女性の場合は三十歳が転職限界年齢だという人もいます。(本文より)
どうして、そんなヒドイこと言うんですか?就職希望者にこちらの方があなたにお勧めの会社ですとか薦めないんですか?と千晴さんは詰め寄りますが、来栖さんはあっさりとこう答えます。
そりゃあ、俺は言わないよ。自分のことすら自分で決められない奴のために、なんで俺が代わりに選択してやらなきゃいけないんだって話だ。
雇用機会均等とか、きれいごとを言う人もいるけれど、現実がこうなっているということを理解できなかったら、せっかく就職してから後悔する可能性が高い。そしてまた会社辞めることになってしまう。
どんな職種なのか?給与などの待遇はどうなのか?そういうことの提示はアドバイザーとしてするけれど、その会社に行こうと決定するのは本人の意志なのだ!と来栖さんは語ります。
最初は文句を言いながら来栖さんの指示に従っていた千晴さんでした、少しずつ彼の言うことがわかってきたのです。そして、自分があの会社を辞めるようになってしまった理由も。
就活のために必死で身につけた「内定をもらえる好印象の誰か」が、「上司に評価される優秀なだれか」になっただけ。自分ではない《誰か》のイメージを守るために働いて、自滅した。
就職の理想と現実が上手く描かれていますね。この会社に入りたいと思うからこそ、自分を多少脚色して面接に挑むというところまではいいのですけど、入社後もそれをずっと続けていくことに疲れてしまう。でも、自分で作り上げたキャラを今更崩すことができない。そして上司の言うままに働き、壊れる。
千晴さんのように壊れてしまう人は、きっと多いのでしょうね。そのまま自分はダメな人間だと思い込んで、引きこもってしまったり、うつになったり、自殺してしまったり、ひとりで抱えきれない悩みに押しつぶされてしまう人が増えているのは、悲しい事実です。
それでも、人間は働くんだ。だから俺は、自分が担当する求職者に、その人が全力で考え抜いた最善の選択をしてほしいと思っている(来栖嵐)
変な人だなぁって思っていた来栖さんの真実を知るにつれ、彼は真剣に人のことを考える人なのだと、千晴さんは理解できるようになりました。そして、自分のことを自分で決められる人になれたようです。
千晴さん、次はあなたの番ですよ!
#転職の魔王様 #NetGalleyJP
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