『食っちゃ寝て書いて』小野寺史宜
横尾成吾は小ヒットは出したことがあるけれど、あまりぱっとしない小説家。もうすぐ50になるという歳なのに、ワンルームマンションで贅沢とは無縁の生活をしています。毎日豆腐と納豆を食べて、歩くことが好きだから健康ではあるけれど、このまま歳をとっていく不安があります。
最近書いていた作品は担当編集者からボツだと言われ、作家としてダメになったらどうしようという不安も増えてしまいました。
「まち」の瞬一くんと「ライフ」幹太くんが、図書館で借りて読んでいた本の作家が、この横尾清吾さんでしたね。いい作品を書いてるけど地味で目立たない作家なのかな?でも、図書館にあるということは、それなりに認められている作家ということなのでしょう。
新しく担当になった編集者の井草菜種くんは、横尾さんならもっと売れる作品が書けるんじゃないかと期待しています。そんな気持ちが横尾さんにも伝わったようで、新しい作品の構想が少しずつ出来上がっていきます。
小説が売れるかどうかは、その作品がどれだけ面白いかもありますけど、売り方が大事だったり、世間で話題になるかどうかが問題だったり、ある程度名前が売れている人以外は、大変なんですよね。
この本の中で、小説家としての悩みも、編集者としての悩みも描かれていて、「ああ、こうやって小説は作られていくのか」というシーンがいろいろと登場します。編集者から「ここは直した方がいいのでは?」「これでは共感できない」などとダメ出しされて、それに抵抗したり、でも書き直したり、書く側の苦悩も感じました。
50歳という年齢は、人生を折り返しちゃったなと実感する年頃です。このままの生活をキープできるのか、できないのか?今の仕事が好きだけど、それをいつまで続けられるのか?もうダメなのか?そんな風に、気持ちが揺れ動く年頃でもあります。
横尾さんは小説を書くのが好きだから、ものすごく売れなくてもいいから、小説を書き続けられればいいなと思っている感じなんですけど、今書いている作品がヒットしたら、ちょっと人生が変わるかもしれませんよ。編集者の菜種くんも、この作品がきっかけになって将来が開けていくかもしれませんよ。そんな気持ちになるラストでした。
2008冊目(今年28冊目)
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