『君たちが忘れてはいけないこと』 佐藤優
この本は私立灘高校の生徒と佐藤優氏の対話をまとめたものです。将来日本をリードしていく人になっていくだろう高校生に、佐藤氏は今の日本の状況を説明してくれます。それは学校でも社会でも教えてくれない「日本を動かしている思想」に関するものです。
公務員が無償で仕事をするなんて、こんな危険な話はないからね。人は食べないと生きていけない。給与なしで仕事をするってことは、どこか他で特権を乱用してお金を作る可能性があるわけでしょう。(本文より)
この文章を読んだとたんに、M氏のことを思い出してしまいました。「給与はもらっておらずボランティアで会長をやっている」というお話でしたよね。でも政治献金はちゃっかりもらっているということが、最近明らかになりました。そうなんですよ、タダであんな面倒くさいことを引き受けるはずはないんです。
砂川さんの件は非常に面白い応用問題で、彼は連立方程式を立てたわけなんですよ。官邸を守り、財務省を守り、自分を守るにはどうするべきかという連立方程式です。
官僚と財務省を守るだけだったら簡単だ。「私の一存でやりました」「忖度もしていません」「私が誤った答弁をしました」と言えばいい。恐らくそれに関しては官房長には報告していると思うよ。だから事実関係だけを全部述べれば、財務省はある程度の傷を負うけれど致命傷にはならないし、官邸も助かる。
けれど、彼の今回の究極目標は自分を守ることでした。証人喚問に応じたのは、自分を守りたかったからなんだよ。
ここで罪を被ったってしょうがないことを砂川氏はわかっていたからこその、あの答弁だったのでしょうね。どんなことをしても、財務省のトップが彼に「よくやった」と言う訳がないんですから。それどころか「あいつが全部悪い」「細かいことは私の知るところではない」で済まされちゃうものね。
灘高校へ行っているような頭のいい人たちが、こういう現実を知って、自分の将来をそこに賭けるでしょうかね?いや、自分が変えるのだと思って官僚になったとしても、数年後には辞めちゃうんじゃないかしら。鬱になっても、自殺者が出ても、自浄作用がないところで働くのは嫌でしょ。仕事の内容うんぬんより、死にたくないもの。
質問に淡々と答えていく佐藤氏も凄いけど、その解説にいちいち頷いている灘校生も凄いなぁと思います。こんな風に日本のことを真剣に考える時間を、他の高校生にも持ってもらいたいなぁと思います。
そして、大人の皆さん、日本ってこんな国なんですよ!知ってましたか?
2023冊目(今年43冊目)
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