『教養の書』 戸田山和久
われわれの心に備わった認知バイアスは適応の副産物だ。だから、いまの世の中を渡っていくためには、バイアスや偏見のとりこになっていた方がむしろ楽かもしれない。しかし、そういう人々にできないことが一つある。世の中をよくすることだ。世の中をよくするという仕事は、教養への道を歩み続ける人々にしかできない。(p249)
キミが大学で学ぶことの国家にとっての意味。これは実にストレート。安価で良質な労働力を生み出すこと。大学によってはこれに、イノベーションをバンバン生み出す人材を生産することがつけ加わる。こういう人たちが一定数いないと、国力は低下しちゃうからね。だから、大学には多額の税金がつぎ込まれているし、就職率と就職先が大学評価の指標になる。(p24)
キミが大学にいくことの人類にとっての意味は、キミにこうした知的遺産の継承の担い手(リレー走者)になってもらうことだ。このような人々がいないと、人類の幸福な生存は難しくなる。(p35)
ブッダの生涯と仏教についてある程度知識がないと「聖☆おにいさん」だって楽しめないぞ。(p51)
いやいや、この本に書かれている内容には圧倒されっぱなしです。大学生を対象として書かれている文章ですけど、とてもわかりやすい文章だけに、グサグサっとわたしの胸を突いてくるのです。
わたしたちは教育を受ける権利を持ち、学校教育を受けてきました。それは自分の能力を増やすため、社会で役に立つためというような理由付けで行われてきました。いろんなことを学んできました。どうしてこんな勉強をしなければいけないのかと疑問に思うようなこともあったし、社会に出てから全く役に立たないと思っていたものもありました。
世界が大きく変わり、学校で習ったことが大きく覆ってしまったこともたくさんあります。日本は「重高長大」産業で躍進しているのですと習ってきたけれど、もうそんな時代じゃないし。国名が変わってしまった国も数多いしね。
「教養」というのはどんなものなんだろう?と考えてみたとき、芸術とか音楽とか歴史とか、仕事とは別の、いわば高級な道楽というような認識でいました。そういうものを知っていることによって人生における「ゆとり」とか「幅」を広げるものなのかなぁと思っていたのです。
教養とはかたちのある情報単位の集積のことではなく、カテゴリーもクラスも重要度もまったく異にする情報単位のあいだの関係性を発見する力である。雑学は「すでに知っていること」を取り出すことしかできない。教養とは「まだ知らないこと」へフライングする能力のことである。(内田樹 p76)
「まだ知らないことへフライングする能力」と言われると、それは欲しいなぁ!雑学と教養の差は大きいなぁ!
「すでに知っていること」を取り出すだけじゃ、説教臭いだけだものね。その先へ進むための能力と考えるととても魅力的!
もともと持っていたAという能力と、Bという何かが化学反応を起こしてAでもBでもない何かを生み出すって凄いなぁ。教養とはそういうものなのか。一見無駄なように見えて、それが大事ってことなのね。
ところで、「自由な人格」の「自由」とは何か。それは何からの自由だろうか。きみたいにはもうわかっているはす。それはまず、自分自身からの自由だ。自分の恐れ、知的怠惰、バイアス、偏見から自由になること。そして、自分が身につけた言葉からの自由だ。自分の専門分野からの自由、生まれた土地からの自由、子かからの自由。教養は、きみがこうしたさまざまな拘束から字自らを解き放ち、魂の自由を獲得するためのものなんだ。
このような意味での「自由人」になってはじめて、良い世の中をつくる、ということができるようになるんだろう。そして、よりよい世の中をつくるという仕事は、きみたちがきみたち自身のためにやらなくてはならない。(あとがき より)
この本で知った「ゴディバ夫人」の話にビックリ! Queen の ”Don’t stop me now" の歌詞の中に Lady Godiva があったとはねぇ。知っているだけじゃ雑学だけど、これが教養になる日が来るかしら?
わたしは高校生の頃に植草甚一さんのような「雑学の王者」になりたいと思っていたんだけど、植草さんは雑学ではなく「教養の王者」だったんだと今気がつきました。
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