『妙な話』 芥川龍之介
僕は友人の村上と喫茶店で話をしていました。彼は自分の妹の千枝子が神経衰弱になってしまって、不思議なことを口走るというのです。
千枝子は鎌倉へ行こうとしていて、中央停車場(現在の東京駅)の構内にいました。すると見知らぬ赤帽が「旦那様はお変わりもありませんか」と声を掛けてきたというのです。この赤帽に会ってから夢でうなされるようになり、この赤帽のことを思い出すと怖くて電車にも乗れなくなったのです。
ひと月ほど経って、夫の同僚が東京へ戻ってくるというのでお出迎えに停車場へ行ったとき、またあの赤帽に会ってしまったのです。そして赤帽はこういうのです。「旦那様は、右腕に怪我をなすっていらっしゃるそうです。御手紙がこないのはそのためですよ。」確かに、地中海のほうへ赴任した夫から手紙が届かなくなって心配していたのです。
なぜあの赤帽はそんなことを言ったのか?なぜそんなことを知っていたのか?千枝子は脅えてしまいました。
赤帽さんは、鉄道の構内で荷物を運んでくれる人です。東京駅や上野駅で昔見かけたことがあります。赤帽さんについて調べていたところ、2006年に赤帽さんはいなくなってしまったのですね。
2000年(平成12年)7月31日 上野駅で赤帽が廃止
2001年(平成13年)3月31日 東京駅で赤帽が廃止
2006年(平成18年)岡山駅で赤帽が廃止、日本の鉄道から赤帽が消えた
芥川がこの作品を書いたのは大正10年(1921年)この頃の東京駅だったら、きっと大勢の赤帽さんが働いていたのでしょうね。今と違って荷物を別便で送ることが少なかったから、遠くへ旅する人は大きな荷物を持ちこんでいることが多かったので、赤帽さんが活躍していたのです。
この作品はぞくっとするようなタッチで描かれていますけど、最後の部分でなるほどねぇと思わせるところが上手いなぁと思いました。100年前という古さが魅力のミステリとして楽しめました。
この話の中で登場する中央停車場(現在の東京駅)は辰野金吾の設計で、大正3年(1914年)に完成しました。彼は大正8年にスペイン風邪で亡くなっています。ということは、この作品は猛威を振るったスペイン風邪がおさまってきたころの話です。当時としては大変モダンな駅という場所を舞台にしたミステリーだったのですね。
2013冊目(今年33冊目)
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