『アンブレイカブル』 柳広司
横浜特高のクロサキという男が、スパイ活動をしていると疑わしい人物、危険な思想を持った人物を追い詰めていきます。第二次世界大戦の戦時下、国にとって不利益を与える要注意人物という疑いが掛かったら、どうやっても逃げ切れなかったのは、彼のように冷徹な人間が中枢部にいたからなのでしょう。そして、その命令を愚直なまでに遂行する役人が大勢いたということなのです。
東京大空襲で町は壊滅的な状況だと言うのに、普段通りの仕事を続けていた特高の愚かさにクロサキはあきれていましたけど、日本ってそんな国なんですよね。
クロサキ自身、これは違うなと思いながらも仕事をしているところが怖いのです。ある人物の思想が軍部にとって都合が悪いから取り締まっているけれど、冷静に考えればその思想は正論だったりするのです。
まともに戦争をしてしまったら、日本の国力では欧米諸国に対抗できるはずなどないのに、押し切ってしまった軍部。いざとなれば神風が吹くとか、本土決戦になったら竹槍で戦うのだとか、支離滅裂な理論を国民を与え続けていたのです。
「こんな状況のまま戦争を続けても負けるだけだ」という正論は否定され、それを口にした人は検挙され、獄死するしかなかったのです。
ドキドキしながら読み進めましたが、ジョーカー・ゲーム のような爽快感がないのは、日本国内の話だからなのでしょうか。外国相手のスパイ戦の怖さとは違って、日本人同士の戦いは、権力がある側の論理だけで進む怖さを感じました。そして、こんな論理は今でも日本の中に生きているのだと痛感するのです。政府にとって都合の悪いことは、たとえそれが正義だとしてもひねりつぶすという思想は戦前から一つも変わっていないのですね。
・雲雀(ひばり)
「蟹工船」で仕事をしていた人たちに、小林多喜二は取材をします。そして、あの作品を書き上げたのでした。
・叛徒(はんと)
反戦川柳作家の鶴彬(つる あきら)は特高に目を付けられていました。
・虐殺(ぎゃくさつ)
編集者たちは検閲を恐れながらも、必死に本を作り続けました。そんな彼らの何人かが失踪してしまったのです。
・矜恃(きょうじ)
天才哲学者・三木清は治安維持法違反で検挙され、豊多摩刑務所へと送られたのです。
2028冊目(今年48冊目)
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