『陰翳礼讃』 谷崎潤一郎 大川裕弘
思うに西洋人の思う「東洋の神秘」とは、
かくの如き暗がりが持つ
不気味な静けさを指すのであろう。(本文より)
日本の美は薄暗がりが作り出していると、谷崎は語ります。静けさや陰の中で映えるように、日本の調度品は作られているから、それを明るい場所で見ると、ニュアンスが違うということなのでしょうか。
金箔を使った屏風や漆の器などは、薄暗い日本家屋の中でこそ、真の光を放つのだという谷崎の指摘に、ううむと唸らされてしまいます。確かに、金箔をはった仏像などは明るい場所で見ると、どうしてこんなにギラギラしてるんだろう?と思ってしまうけど、薄暗闇の中でわずかな光を当てたら、後光が指しているように見えるでしょうね。そういうバランスでできているということを知るのは大事なことです。
文楽の芝居では、女の人形は顔と手の先だけしかない。胴や足の先は裾の長い衣装のうちに包まれているので、人形遣いが自分たちの手を内部に入れて動きを示せば足りるのであるが、私はこれが最も実際に近いのであって、昔の女と云うものは襟から上と袖口から先だけの存在であり、おそらく闇に隠れていたものだと思う。
昔の身分の高い女性のイメージって確かにそうかもしれないなぁ。顔と手首から先しか見えないものね。ヒンズー教ではおへそは出していいけれど下半身は足首までは見せないようにしているし、イスラム教では顔と手首から先と足首から先しか出せない。キリスト教が強い西洋だって100年前には膝丈のスカートは許されなかった。
世界中の女性に身体は隠すものという縛りがあったのが、ついこの50年くらいで大きく変化してきたから、いろんなことが問題視されるようになったのです。
見えない方が神秘的でステキと思うのか、全部見たいと思うのか、そこは難しい線引きだなと思います。
谷崎の文章に、屏風や庭や漆器などの日本的な景色の写真が結び付いて、実に美しい本です。
西洋化することが正しいと信じて、結局は明るすぎる町を作り出してしまった日本は、これからどちらへ向かっていくのでしょうか?
#陰翳礼讃 #NetGalleyJP
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