『あるがままに自閉症です』 東田直樹
小さい頃、僕は自分が自閉症だということを知りませんでした。どうして、みんなと同じことができないのか分からず、つらい毎日を過ごしていました。
自分のことを自分で説明するのは大変です。なぜなら、普通の人がそうであるように、僕の行動も意識せずにしていることがほとんどだからです。(文庫版あとがき より)
自閉症の人がどういうことを考えているのか、なぜそういう行動をしてしまうのか、他の人にはなか分かってもらえないことばかりです。たぶん医療関係の人だって、一緒に暮らしている家族だって、ほとんどわかっていなかったのです。
東田さんが13歳の時に書いた「自閉症の僕が跳びはねる理由 」は、当事者側から発信されたとても貴重なものだったのです。彼の言葉から、今まで知りえなかった自閉症者が考えていることが、具体的に分かるようになったのです。この本は18歳の時に書かれました。
どうして「はい」と答えられないのか。ここで待っていてねと言っても、どこかへ行ってしまうのか。どうして急に走り出すのか。そのわけを東田さんは教えてくれました。といっても、そういう行動をしてしまう自分だということは間違いないけれど、どうしてそうなるのかについては自分でもわからないのです。
大まかな傾向としては「様々な変化についていけないから、同じことを繰り返す」とか、同じようなことが重なるとどれがどれだか分らなくなるので、時系列などで説明してもらうとわかりやすい」とか、「音に敏感なので外出する時にはいつも音楽を聞きながら歩いている」とか、少しずつ外の世界との折り合いを付けているんだということが本の中で語られています。
同じ本ばかり読んでいるとか、小さい子みたいだとか、悪口のように言われると悲しくなります。難しい本をどんどん読める人は、立派だと思います。けれども、本を読む楽しさは、人それぞれでいいのではないでしょうか。
誰かが楽しそうに本を読んでいたら、そっとしてあげてください。知識を得ることだけが、本を読む目的ではありません。
本も友達の一人だと、僕は感じています。
「また同じ本を読んでる」って知らない人はいうけれど、友達である本と何度会いたいんだもの、自分にとってはそれが楽しいことなんだよって東田さんは語っています。どんなスタイルで本を読んだって構わないから、それでいいのよね。自分の価値基準を押し付ける人ってどこにだっているけれど、そういうのって迷惑なだけよね。
僕は自閉症者ですが、だからといって、みなさんと違う種類の人間ではありません。
配慮は必要かもしれませんが、区別はされたくないのです。
自閉症というと、特別な症状を持つ人と思う人も多いかもしれません。でも、この本を読んで感じたのは、こういう人がわたしの周りにも大勢いるよということです。
人が大勢いるところだと平常心でいられないとか。メニューの中から好きなものを選んでと言われても、どれを選んでいいのか分からないとか。好きな人の前だとドキドキしちゃって言葉が出てこないとか。わたし自身にとっても、友人や知人を見ていても、そういうのってよくあることじゃないですか。
わたしたちにとっては時々起きることが、東田さんにはしょっちゅう起きているということなんだって、わたしは思いました。そう思ったら、特別な人じゃないよねって思えてきますね。
人の頭の中は見えないから、誤解がたくさん生まれます。でも、そういうことなんだって知っていたら、気にならなくなります。そういうところから、みんな平等なんだっていう気持ちが生まれるのだと信じたいです。
2054冊目(今年74冊目)
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