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『上級国民/下級国民』 橘玲

Joukyu

上級国民/下級国民

橘玲(たちばな あきら)

小学館新書 354

生産性と賃金のあいだには、頑健かつ強い正の相関関係があります。生産性の高い国ほど国民の平均賃金が高いし、生産性の高い企業に勤める従業員ほど賃金が高くなります。逆にいえば、日本がどんどん貧乏くさくなった理由は、「他国に比べて生産性が低いから」で説明できてしまうのです。(本文より)

 日本はもはや豊かでもなく、先進国でもありません。人口が減り、労働力が減り、確実に貧しい国になっています。でも、全員が貧しいわけではありません。富や権力は一部に集中し、中流だと騙された働きバチたちと、貧しい人々の国になってしまったのです。

 あの池袋の暴走事故以来、上級国民だから名前が公表されないんだとか、逮捕されないんだとか、いろんな噂が飛ぶようになりました。実際は違う理由があるにせよ、そういう噂に納得してしまうような気分が世間に充満しているのです。

 数年前に話題になった「幼稚園落ちた」の話は解決されないままです。「ガラスの天井」だって変わっていないし、自分は「下流」だと自覚する人がどんどん増えているのは間違いありません。

 

(女性の非正規が増えた理由とは)労働市場に新たに参入した若い女性の「無業者」の多くは専業主婦でしょう。バブル崩壊による家計の逼迫や価値観の変化で彼女たちが働こうと思ったとき、日本企業は中途採用の正社員のハードルがきわめて高いため、非正規になるしかなかったのです。

 学校では男女平等だと教わりましたけど、社会に出るとそれが嘘だということがすぐにわかりました。今は求人する時に性別や年齢で区別してはいけないということになってますけど、実際にそれが守られているとは信じられません。

 

世界的にもアメリカ全体でも平均寿命は伸びつづけていますが、奇妙なことにアメリカの25~39歳の白人の死亡率は2000年以降、年率約2%のペースで上昇しています。50~54歳の白人ではこの傾向はさらに顕著で、何と年率5%のペースで死亡率が上がっているのです。
なぜアメリカの白人だけが死んでいるのか。それは白人の中でも高卒以下の人たちの死亡率が、全国平均のすくなくとも2倍以上のペースで上昇しているのです。
アメリカの低学歴層の白人の死亡率が高い主な原因はドラッグ、アルコール、自殺で、これは「絶望死(deaths of despair)」と呼ばれています。彼ら/彼女たちはアメリカの「見捨てらたひとびと」であり、トランプはそれを「発見」して熱狂的な支持者に変えたことで、世界で最も強力な権力を手にしたのです。

 こういう分析を初めて知りました。なるほどね、アメリカという大国の中での「下流」を自認する人たちが、この人なら自分たちを助けてくれると思ったからトランプに熱狂したというのは、とてもよく理解できます。大統領選の選挙結果も、下流ののヒーローだから上流の人たちに虐められたり、貶められたりするという理論になっていき、彼らに受け入れられたんですね。

 

 「上級国民/下級国民」という階層意識は、あっという間に日本社会に広がりました。それは多くの人の実感が裏付けているからでしょう。同じことをしても捕まる人もいれば捕まらない人もいる。ウソをつき続けても、記憶にございませんと言い張っても、それが許されてしまう人がいるのは間違いないのですから。

 そんな不安に満ちた社会を放っておいたら、近いうちに破綻するのは見えています。

 それを打ち破るのは何なのでしょう?

 それとも、このまま落ち続けていって、日本という国は崩壊してしまうのでしょうか?

2052冊目(今年72冊目)

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