『曲亭の家』 西條奈加
お路は神田の医者の娘として自由に育ちました。そんな彼女が嫁ぐことになったのは、南総里見八犬伝で有名な曲亭(滝沢)馬琴の一人息子の宗伯でした。病弱で癇癪持ちの夫、口の悪い姑、作家としては優秀だけれど、何でも自分で決めなければ気が済まない舅の馬琴。こんな家はもうこりごりと、一度は逃げ出そうとしたお路でしたけど、子どもができたこともあって、この家で頑張ろうと決めたのです。
舅・姑・夫の3人とも偏屈なこの家で、女中はすぐに辞めてしまいます。結局家のことはお路がやらなければならないけど、財布のひもを握っているのは舅、この男は一筋縄ではいかない頑固者です。とはいえ、何年か一緒に暮らすうちに彼らの心の内が少しずつ見えてきて、相手の仕方が少しずつ上手くなっていったのです。
嫁に行った家の人たちに合わせて生きていかなければならない辛さを感じながらも、その家の人達がどうしてそういう生き方をするようになったのかを理解しようとするお路は偉いなって思います。そして、そんな彼女の努力を馬琴はちゃんと見ていてたのでしょう。目が悪くなった自分のために口述筆記をして欲しいというのです。それは、あなたにしかできないとまで言われたのです。
馬琴は、原稿料のみで生計を営むことのできた日本で最初の文筆家でした。そんなすごい人だけど対人関係が不得意でした。妻と息子も同じようなところがあって、結局この家を支えたのはお路だったのです。
お路の人生は大変なことばかりだったけれど、彼女の頑張りをちゃんと認めてくれる人たちがいて、その人たちによって助けられたお路は幸せだったと思います。
この物語を読み始めたとき、お路という人は架空の人かと思っていたのですが、実在の人物だったのですね。彼女の影での支えがあって初めて馬琴の作品が生み出されたと思うと、八犬伝が今までと違う感じに思えてきました。
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