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『JR上野駅公園口』 柳美里

JR上野駅公園口

柳美里(ゆう みり)

河出書房新社

2020年全米図書賞受賞作

この公園で暮らしている大半は、もう誰かのために稼ぐ必要のないものだ。女房のため、子どものため、母親、父親、弟、妹のためという枷が外れて、自分の飲み食いのためだけに働けるほど、日雇いは楽な仕事ではない。

昔は、家族が在った。家も在った。初めから段ボールやブルーシートの掘立小屋で暮らしていた者なんていないし、成りたくてホームレスになった者なんていない。こう成るにはこう成るだけの事情がある。(本文より)

 この物語を読んでいたら、昔の話を思い出しました。父の古い友人が川崎で日雇い労働者を集めて現場へ派遣する親方をしてました。その方がうちに遊びに来た時に、子分の若いお兄さんの話をしてくれました。

 彼は昔現場で高いところから落ちて、頭を打って様子がおかしくなっちゃって、労災が下りたので一旦は田舎に帰ったんだ。だけど田舎じゃ仕事がなくてまたこっちへ帰って来たくなったんだけど、旅費がないんだよね。田舎に日雇いの人を集めに来た業者がいて、その人に旅費をもらって、こっちへきたんだ。でもそこでの仕事はきつそうなので、そのまま逃げて俺の所へ戻って来ちゃったの。その業者にバレたら大変なんだよ。ってね。

 日雇いの仕事をしていれば、とりあえず屋根のある所で暮らせるけど、年取ったら大変だろうなぁって薄ぼんやりとは思っていたけど、やっぱり現実は厳しいんだなぁ。モチベーションを失ってしまった人には無理な働き方ということなんですね。

 ホームレスになってしまった理由は様々あるけれど、そこから元の生活へ戻ろうとしない人がいるというのも事実なんですよね。過去を知られたくないとか、身寄りがないとかね。行く当てもなく上野公園に住み着いた人たちなんだけど、ここだって決して安住の地じゃない。

 「すべての国民は法の下に平等である」はずなのに、道路や箱モノにはいくらでもお金を使うのに、福祉にはケチな国。こういう人たちは日本にはいないことにしたいの?こういう現実は確かに存在しているのに。そんなことを考えさせられる作品でした。

 先日読んだ 文芸ピープルで、この作品が取り上げられていて、気になって読んでみました。読んで良かった。

2093冊目(今年113冊目)

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