『あとは死ぬだけ』 中村うさぎ
今後のわたしの課題は「他者を受け這入れること容れること」であろう。そう、たぶん私にとっての「結婚」の意義は、自分の人生に他者を受け容れることだったのだ。「愛」の本質とは、おそらく「受容」なのだと思う。私のくれた。ような人間を、夫は全面的に受け容れてくれた。自分勝手で傍若無人で傲慢な妻を「それがあなただから」と受け容れ、そのうえそんな妻の介護までしなくてはならなくなったのに、相変わらず「あなたが喜んでくれると嬉しいから」と世話をしてくれる。最初のころはそんな言葉を聞いても「ほんとかよ」などと思っていたが、今では彼が本気で言っているのだと信じられるようになった。(本文より)
中村うさぎは、もしかしたら死んでしまったかもしれない日を境に、人生が変わったのです。これまでは「自分がやりたいんだから」「自分が正しいと思うのだから」ということで突き進んできて、それでいいのだと信じて生きていたのです。でも、入院して、夫の介護が必要な体になってしまって、初めて夫の愛に気づいたのです。
夫が良い人であることは分かっていたけれど、ここまで自分を大事にしてくれる人だとは気づいていなかっただけに、こんなわたしを全面的に受け入れてくれる夫という人間の寛大さに驚いたのです。そして、彼の言葉にウソはないと、やっと信じられるようになったのです。
こういう信頼感というのを、うさぎさんはきっと、生まれて初めて感じたのでしょうね。
私が物書きになったことも、今にして思えばいい体験だった。この職業に就いてなかったら、私は言葉で自分を説明しようとも思わなかっただろう。それに、仕事のおかげでいろいろな人々との出会いもあった。私に深い影響を与えた人、わたしに新しい世界の見方を教えてくれた人、私を支えてくれた人、私を理解してくれた人・・・その人達に心から感謝をささげたい。あなたがたのおかげで、私の人生はめちゃくちゃ彩り豊かになりました。私を裏切った人や、私を傷つけた人も、私にとっては意味のある存在だった。そういう人が私をまた新しい発見に導いてくれるからだ。
これまでは距離感があった両親に対しても、ちょっと理解ができるようになったというか、「まぁ、それでいいか」と思えるようになったというところなのでしょう。お互いに年を取り「大人と子供」の力関係が「老人と成人」の力関係になったというのもあるかもしれません。
自分という人間の信じることが、他人にとってはとんでもないことで、それじゃダメだよと言われることに、驚き、抵抗し続けてきたうさぎさんの人生でしたけど、所詮他人は他人なんですよね。理解しあうことが不可能な人もいるんです。
女らしくしろという男からの視点、女同士の微妙な立ち位置争い、そういうものに疲れてしまううさぎさんにとって、ゲイの人たちと話をしているときだけが自然でいられるという話を読んでいると、何だか切ないなぁ。
常識に縛られてしまっている人たちとのつきあいは疲れます。「どっちでもいい」ことを「こっちじゃないといけない」と言い続けるのは、間違いなくハラスメントです。でも、そういう人たちにはハラスメントという言葉の意味すらわからないから、ハラスメントはなくならない。だから、そんな世間と縁を切りたくなってしまう人が増えるということが分からないんだろうなぁ。
多くの男子の自己投影の対象が人間ではなく無機質な物体や生命体である点に、男女の超えられない壁を感じてしまう私である。
メカ、昆虫、変身ものなど、男子は無機質なものを好む。変身ヒーローはマスクをつけ、巨大化し、より強いものに変化する。女子はたとえ変身するにしても元の姿を残しているものに共感する。だから変身しても顔は自分の顔のまま。こういう分析って面白いなぁ。
メイクやファッションで変化をつけるにしても、あくまでも元の自分を残してしまう女子にとって、無機質なものに思いを馳せる男子の思考は永久に謎なんだなぁ。こういう心理学を極めてくださいよ、うさぎさん!
いつまで生きられるか分からないということで書かれたこの本ですけど、うさぎさんはそう簡単に死なないと思いますよ。だって、まだやりたいことがあるでしょ!わたしはそう信じています。
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