『百日紅 上』 杉浦日向子
一日江戸人がとっても面白くて、日向子さんの本をまた読んでしまいました。
この物語に登場するのは葛飾北斎とその娘「お栄」です。
お栄のことは「北斎になりすました女 葛飾応為伝」で素晴らしい絵師だということは知っていましたが、この作品の中で描かれるお栄は、口が悪くてだらしないけれど絵を描かせたら天下一品の北斎を上手く操っているマネージャーのようにも見えてきます。
「鬼」という作品の中で、お栄が描いた鬼の屏風絵が素晴らし過ぎて、それを置いている家の奥方が鬼に取りつかれてしまいます。それを解決するために北斎が絵を描き加えるという話なのですが、北斎は只者じゃないなぁという感じがあふれているのです。自分の絵を勝手に治されてしまっても、北斎にだったらしょうがないなぁというお栄の顔も面白いのです。
この親娘は悪口を言い合いながら、結構お互いのことを分かってるなというところがいいんです。
この当時の絵師たちは、いろんな絵を描いています。本の挿絵だったり、浮世絵だったり、屏風絵や襖絵のような大きなものも、その図柄も、人間や動物だったり、風景だったり、宗教に絡むものだったり、ホントに様々です。
お金のためには何でも描くという人もいますけど、それぞれに得意なジャンルがあるのようです。春画の需要も多かったようで、有名な絵師さんたちも描いていますが、みんな普段の名前ではなく別名で書いているのは、そういう絵を描いていることは内緒だよって思っている人が多かったからでしょうか。とはいっても、画風で誰が書いたかはバレちゃっていたようですけど。
そんな中で、北斎さんのように嫌なものは断るというスタンスを取れる人は余りいなかったのでしょうね。そんなことを言っていたら次の仕事が来なくなるっていう心配が北斎さんにはなかったのでしょう。
一日江戸人で語られていた、あれも、これも、この作品の中にたくさん登場します。
さぁ、下巻ではどんな話が展開するのでしょうか。とっても楽しみです。→ 百日紅 下
2159冊目(今年179冊目)
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