『約束の地』 ロバート・B・パーカー
この間読んだ「短編画廊」の「コッド岬の朝」を眺めていたら、ケープ・コッドが舞台のこの作品のことを思い出し、読んでみることにしました。
この本を最初に読んだのは多分30年くらい前だと思います。スペンサー・シリーズはすべて読みました。
スペンサーの仕事は私立探偵、一日100ドルと経費を請求します。30年前だから、これくらいの金額は普通なのかしら。今回の依頼は、家出した妻の捜索。スペンサーにとってはよくある依頼内容だけど、依頼主にとっては青天の霹靂、彼女がどこへ行ってしまったのか想像もつかないというのです。
スペンサー・シリーズで後にバディとして活躍するホークが、今の時点では敵側の人間として登場します。
「ホーク、おまえさんとは長年の知り合いだが、どうして、おまえさんが、ある時はまるでメリル・リンチの幹部のようなものの言い方をし、ある時は、南部の百姓のようなしゃべり方をするのか、いまだにわからないんだ」
「おらあな、貧民街教育の産物なんだ」貧民街を強調した。「時折、育ちがひょいと顔を出すんだ」
「なるほど、そうか。それで、今はその貧民街のどの辺に住んでいるんだ?」
ホークがスーザンを見てニヤッと笑った。「ビーコン・ヒル」(本文より)
ビーコン・ヒルは「ボストンらしい景観を楽しめる地域」と呼ばれる、いわば美観地区のような場所です。でも、多分ホーク自身は家賃を払っていません。彼はいつもインテリ女性の家に居候していますから。
「いいや。おれは、自分のやりたいことしかやらない。いわれたとおりには、絶対にやらない。このスペンサーも同じだ。」
スペンサーとホークは、同業者というよりも、仕事上敵側にいることが多いにも関わらず、お互いの中に似たものを見出しているのです。
「おれと、あそこにいるあんたの男は、似た点がたくさんある。そのことは、前にも話した。スペンサーや俺のような人間は、もうあまり残っていない。彼がいなくなったら、さらに一人減ることになる。おれは寂しくなる。それに、今朝の一件の借りがある」
今回の話の中で、いくつかの人間関係が語られています。家出した妻とその夫。スペンサーと恋人のスーザン。そして、スペンサーとホーク。
長年連れ添ってきたはずなのに、お互いのことを理解しきれていない夫婦。愛し合っているけれどお互いの仕事や人生観を尊重しあっている恋人。そして、今は敵だけれど明日は共に戦うことになる友人。
料理が好きで、ビールが好きで、トレーニングが好きで、スーザンを愛していて、ホークを信頼しているスペンサーが、やっぱり好きだ!
「約束の地」というタイトルは、旧約聖書の言葉でもあり、この物語を実にうまく表現しているなと、改めて思いました。
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