『結婚の奴』 能町みね子
夫(仮)であろうとフケ・デブ専のゲイである。こうして家に通うようになってからも、彼も私も、お互いを全く性的対象と見ていない。(本文より)
能町さんはきっと「好きだから一緒に住もうってことになって結婚しました。」というような単純な結婚のイメージが持てなかったんだと思うんです。それはきっとトランスジェンダーである自分の肉体の問題とか、恋愛というものが良く分からないという問題とか、誰かと一緒に暮らすということに対する期待値の低さとかがあったんじゃないかしら。
ある日、中村うさぎさんがゲイの男性と結婚したということを知って、「そうか、この手があったか!」と思ったのでしょうね。ゲイだけど趣味が合う男性と同居するということならできるかもしれないと思ったわけです。
紆余曲折はありつつも、アキラさんと結婚を前提にお付き合いを始めて、同居して、結婚したのです。
私は毎日、わざわざ外に出て喫茶店で仕事をしていた。何の用もなくても必ず一度家の外に出ていた。食材を一切ストックしていないから、風邪を引いた日ですら必ず外には出て、何か食べ物を買ってきていた。実用面でも、精神的にも、必ず一旦外に出ないと気がすまなかった。
ところが、家に人がいて、話していれば、外に出なくてもさほどの問題がないのだ。
~中略~
人といると、「生活」ができた。私はこの形態を、自分と夫(仮)の力で作り上げたのだ。自信を持っていい。
お互いを性的対象と思わなくったって夫婦になれるんだ。それなりに信頼感もあって、お互いに自由にしてていいんだし。「ただいま」って帰るところがある幸せに気がついたのね。
この2人みたいな人じゃなくても、ある程度の年齢になって、性的なことは考えずに、気の合う人と結婚するというのは、これからの時代の結婚の1つのスタイルになるのかもって思うんです。
コロナ禍になってビックリしたのは、とても元気な独り者の友人が、今までのように外に出られなくなって、言いようのない孤独に襲われてしまったと話してくれたことです。独りでずっと部屋の中にいると、何だか知らないけど涙が流れてくるのよって言うんです。
何かあった時に、そばに誰かがいてくれる安心感を求めて結婚する人が、今増えてるんじゃないかなと、勝手に想像しています。
2165冊目(今年185冊目)
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