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『ぼくは勉強ができない』 山田詠美

ぼくは勉強ができない

山田詠美(やまだ えいみ)

新潮文庫

新潮の100冊 2021

ぼくは確かに成績が悪いよ。でも、勉強よりも素敵で大切なことがいっぱいあると思うんだ――。17歳の時田秀美くんは、サッカー好きの高校生。勉強はできないが、女性にはよくもてる。ショット・バーで働く年上の桃子さんと熱愛中だ。母親と祖父は秀美に理解があるけれど、学校はどこか居心地が悪い。この窮屈さはいったい何なんだ! 凛々しくてクールな秀美くんが時には悩みつつ活躍する高校生小説。(書籍案内より)

  最後の章「番外編・眠れる分度器」は、小学生だった頃の秀美くんが、担任の先生から全く理解されないというところから始まる話なんだけど、大人の欺瞞を見抜いてしまう秀美くんの発言に先生は怒ってるのね。自分の足りないところを見事に指摘されて、それに耐えられない情けない自分を認められなくて怒ってるのよ。生徒に怒っているふりをして、自分を正当化しようとしている。そんな自分の情けなさを認めることができなくてイライラしている。こんな大人が世の中には大勢いるの。

 それと対照的なのが、秀美くんの高校の担任の桜井先生。生活指導の先生に絞られている彼をギリギリのところで助けてくれるし、まじめな話もバカ話もしてくれる。こういう人こそが本当の教育者なんだと思うんだけど、実際にはなかなかいないよね。

 勉強はできないかもしれないけど、秀美くんの頭はかなりいい。世の中の仕組みもよくわかってる。たぶん勉強したいなぁって思うものが見つかってないから勉強してないだけなんだよって思う。

 

 最近「ブラック校則」というのが話題になってるけど、ここは刑務所なの?って思うような、無意味に細かい校則で縛っている学校が多いのね。わたしが高校生だった頃、私立の学校に行ってた友達が「スカート丈は床上〇センチって決まってる」と聞いた時に「なんじゃそら?」って思ったことを思い出しちゃった。

 わたしは都立高校に通っていて「標準服」というのはあったけど着る義務はなかったのね。一応サンダルと下駄はダメってことになってたけど、そんなものみんな無視してた。70年代だったから長髪の男子もいたし、ガロみたいなスーツを着てくる先輩も、ダウンタウンブギウギバンドみたいなミラーのサングラスの先輩も、冬の寒い日に「ダウンは高くて買えないから」といって綿入れ半纏を着てきた友達もいたし、わたしはくるくるパーマで、ジーンズにサンダルで通ってた。

 追試も補習もなくて、放し飼いみたいな学校だったけど、わたしの同期約400名はひとりも落第も退学もしてないのよ。自分たちで考えなさいという体質こそが本当の教育だとわたしが信じているのは、この学校があったからこそ。

 

 自由な考え方のお母さんとお祖父さんと暮らしているから、秀美くんは同調圧力に負けずに生きてこられたんだろうなぁ。「勉強できるだけでつまらない人間なんか魅力的じゃないだろう」って考えられるのって、本当に素晴らしい!秀美くんにそれを教えられてショックを受けたガリ勉くんは、その後どんな人になったのかしら?

 30年前に書かれたものなのに、まるで今起きていることのように感じるこの物語って凄いなぁ!

 こんな面白い本を今まで読まずにいたのは何故だろうって反省してます。みなさん、ぜひ読んでください!

2196冊目(今年216冊目)

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