『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2』 ブレイディみかこ
「IRAが暴れ始めた時代で、俺はアイリッシュが多いロンドンのカトリックの中学に行っていたから、そういうマッチョな男子生徒がいっぱいいた。そういう点では、俺はほら、あれだったな。お前が言っていた、ノンバイナリー。俺はだいたいアイルランドに住んだこともないんだから、アイルランド人でも英国人でもないし、信仰熱心じゃないから、カトリックでもプロテスタントでもない。どっちにも属さない。別にジェンダーの話だけじゃないんじゃないの?」
「・・・父ちゃん、いまなんか、ちょっと深いこと言ったね」みたいな顔つきでフォークを握りしめている息子をちらっと見てから、配偶者はまた新聞を広げて老眼鏡をかけた。
老化が進むとかおちょくってわるかったかなと思った。
一本取られた、とまでは思わないが今回はまあそういうことにしてやってもいい。
しょーもないおやじだと思っていたけど、父ちゃんだってちゃんと考えてるんだ。ノンバイナリー、どっちでもないってのはジェンダーのことだけじゃないんだっていうことを理解した父ちゃんはエライ!
「導く(Lead)ということは、前から引っ張るということだけではなく、ときには一番後ろに立ち、後部が離れてしまわないように押し上げる(Push Up)こと」
これはわたしの保育の師匠、アニーがよく言っていた言葉だ。
だからわたしもその言葉を息子に言ったことがあったのか、あるいは、むかし底辺託児所でアニーが息子の面倒を見ていた時に言っていたのか、それはわからない。
わからないが、彼女の言葉は息子の中に生きていた。いまはなき託児所の設立理念がそこに通っていた子どもに引き継がれ、いまも息をしている。
息子くんは、確実に成長してるよね。学校のこと、地域のこと、社会のこと、ちゃんと考えて、ちゃんと行動している。親の心配よりずっと先に進んでる。
9年生(12歳)からGCSE(中等教育終了時の全国統一試験)に向けてのクラス分けが始まる。
GCSEとは、イングランド、ウェールズ、北アイルランドで実施されている試験で、英語(というか、英国の子供たちにとっては国語)、数学、化学、外国語(息子の学校ではフランス語かドイツ語、スペイン語からの選択制だが、他の外国語の試験も希望者は受けられる)、歴史、地理などの、大学進学を考えている子たちには一定の成績を収めることが必須になる科目に加え、シティズンシップ、経済、コンピューティング、芸術&デザイン、ダンス、映像、エンジニアリング、主教、音楽、演劇など多種多様な科目を選んで受験できることになっている(英国政府のサイトで確認したら32科目あった)。
息子くんが12歳になり将来の進路を考える時期になったんだねぇ。それにしても英国の学校ってすごいよね。32科目もあって、その中に芸術系の科目の多いこと!日本で考えるような勉強とは違う部分に重きを置いているんだなぁ。教養とかセンスとかの重要性をちゃんとわかってるんだよね。
そして最近は、ビジネスや起業に関する科目も充実しているんですって。これまでのように会社に属するという考え方ではなく、自分で仕事を作っていこうというところを、この年代から考えさせているってすごいなぁ。とても現実的な考え方をしてる。英国は保守的なようでいて、ちゃんと現実を見ている。こういう国なら沈没しないだろうなぁ。
自分の人生は自分で作っていくという教育をちゃんとやっている英国の話を読んでいると、日本の現実は厳しいなぁ。ホワイトカラーを作ることしか考えてないもん。職人とか、サービス業とか、これまでにない仕事とか、そういうことって子供のころから考えさせることが大事なんだけど、日本は20世紀からちっとも進化していないように感じてしまうのです。
なんて難しいことも考えてしまいますけど、英国の学校や社会のことがホントに面白く書かれてるんですよね。外国人としての視点と、そこに住むネイティブとしての視点、こういう立ち位置だからこそわかることってあるんだなぁ。
とりあえずこれで完結らしいけど、数年後のこの家のことをまた書いてもらいたいなぁと思うのです。
2212冊目(今年232冊目)
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