『グレゴワールと老書店主』 マルク・ロジェ
グレゴワールは高校は出たけれど、成績が悪くて上の学校に進むことができず、母親のコネでようやく介護施設での仕事に就くことができたのです。でも、ここでの仕事は想像以上にきついのです。食事も着替えもお風呂も排泄も、すべて仕事のうち。いやだと思っても他に仕事が見つかるわけもなく、途方に暮れていました。
ある日、元書店主のムッシュー・ピキエから依頼を受けるのです。読書をしたいが自分は目がだいぶ見えなくなってきて字が読めない。だから本を朗読してくれないかというのです。
最初は本なんか読むのは嫌だと思っていたのですが、他の労働と比べたら格段に楽なこの仕事に魅力を感じて引き受けることにしました。
ムッシュー・ピキエの部屋には溢れるほどの本があるのですが、それでも書店を営んでいたころから考えれば「これっぽっち」しかないのだそうです。彼と本の話をしたり、同録したりするうちに、グレゴワールは少しずつ読書の魅力にはまっていったのです。
ムッシュー・ピキエが語る、本に対する愛も、先に亡くなってしまったパートナーへの思いも、老い先短い自分がやりたいと思っていることも、グレゴワールがきちんと受け止めていくところがいいなぁと思いました。自分とは違う価値観を持った人だけど、この人は尊敬できると思ったから、無理難題を言われてもできる限りやってみようと思ったんですね。
これまでろくでもない人にしか出会ってこなかった彼にとって、ムッシュー・ピキエはやっと出会えたメンターだったのかもしれません。
グレゴワールはこれからきっと、素晴らしい人生を自分の手で切り開いていくのでしょうね。そんな希望を感じました。
2203冊目(今年223冊目)
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