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『交渉力』 橋下徹

交渉力

橋下徹(はしもと とおる)

PHP新書

NetGalleyJP

府庁職員から、「知事が市町村役場に出向くと市町村長たちは喜びます」と聞いていたので、とにかく全部回ろうと考えた。その際、各市町村が府の支援を必要としている議題がある現場にも足を運んだ。そして一か月ほどの間に集中して、43市町村長をすべて訪れた。
府庁職員の言うとおり、各市町村長の多くは「知事がうちの役所に来てくれたのは初めてだ」と好意的な反応を示してくれた。(p23)
市町村長たちの側は「大阪府知事がわざわざ自分の役所に来てくれた」ということをかなりの利益として感じてくれる。このような状況を作り出すことは、交渉を始めるにあたって、こちら側にとって非常にいい環境となる。こちら側はマイナスにならず、相手にとってはプラスになるものの好例だ。(p24)

 人は実際に顔を見たことがある人の方を信用する傾向があります。だからTVなどで顔を売るというのは意味があることなんです。顔を見たことがあるからというだけの理由で信用してしまう。だからCMには有名な顔を使うのです。見たことがあるだけでも信用するのだから、実際に会って声をかけてもらったとか、ちょっと話をしたことがあれば、あっという間にファンになってしまうのです。

 市町村長が府庁に呼ばれることはあっても、府知事が各市町村に来るなんてことはこれまでなかったのですから、「わざわざ来てくださった」という感情を持って迎えられたのは間違いありません。これはすごい戦略です。実は無理難題を吹っ掛けたとしても、あの人は今までの知事とは違うという感情を持ってしまったら、意外と素直に聞き入れてしまうことになるのです。

 なのに、こういうことを実践する人はなかなかいません。なぜなのでしょうか?面倒くさいから?自分は偉いと思ってるから?そこまでしなくていいと思ってるから?

 だからこそ、43市町村を回ったことに意義があるのです。この手間を惜しまなかったことが重要なのです。

 交渉をするときに、優先順位をまず考えると橋本さんは語っています。10項目あったとして、3項目はどうしても通したい。だから残りの7項目は捨ててもいいという気持ちで交渉するというのです。相手にとって大事な項目を無理やりつぶすことなく、自分の主張を通すには、こういう考え方が大事だというのです。

 日本の役所は前例を崩すのが嫌いです。橋下さんが知事になったばかりの時期には、前市長が決めた予算は100%必達でした。でも、これは不要でしょうと議論を戦わすうちに、この項目の全部は変えられませんけど、この点についてはカットできますというような話に変わっていったというのです。

 

今回は決裂してしまった相手と、別の機会に、どこかでつながる可能性も見越して、最後は握手で終わるべきだ。(p46)

 今対峙している相手と、これっきり会わないということはまずないと考えた方がいいのです。どこかで、また出会う可能性があるのですから、最後物別れで終わってはいけないのです。いろいろあったけど、有意義な話し合いだったねという共通理解を持てるのはとても大事なことです。橋下氏は、若いころはこんなことを考えもしなかったけれど、歳とともにそう考えるようになったそうです。意外な感じもするけど、これは大事な気づきなだったのだなと思います。

 

原発をなくし、火力発電をなくしてしまえば、日本は電気をまかなうことができなくなる。ゆえに原発をとるか、火力発電をとるかのいずれしかない。原発をとれば、原発を抑制したい国民感情を犠牲にし、火力発電をとるなら気候変動問題を犠牲にせざるを得ない。どちらを犠牲にするのか。その絞り込みができていない状態で国連総会に行っても、実行する提案は何もできない。
小泉さんはこの犠牲の選択ができないまま「世界をリードする」と表明してしまった。しかし原発推進に踏みきれず、結局火力発電をとらざるを得なかった。世界の77か国は2050年までに温室効果ガス実質ゼロを表明し、国連も日本にそれを求めてきたが、日本は2050年段階では80%削減、2100年末にはゼロになるように努力したいといった表明しかできなかった。ヨーロッパ諸国からは「それでは物足りない」と批判され、「日本が世界をリードする」ことなど不可能な状況だった。(p86)

 優先順位を考えることができなかった見事な例になってしまったあのスピーチは、小泉氏の信頼度をぐっと下げてしまいました。あんなことを言っているようじゃ、日本の将来を任せるのは無理だよねって思う人が増えたでしょうね。

 

 橋下さんも、現職の吉村知事も、役所の人たちから見れば「素人の若造」という扱いを受けていたという話が面白かったです。すでに決まっていることを変えようとする彼らに、人数をかけて、時間をかけて「ヘロヘロになるまで」説得を続けるというのです。ヘロヘロになって、それでいいですと言わせるという手法は、警察での自供強要にも似た、人権無視の体質なんだなと思います。

 そりゃ、普通の人だったら抵抗しきれないなぁ。改革を旗印に知事になっても、現実を変えていくのは大変なんだということがよくわかりました。そんなことをしているから、地方自治体も国も現実に追いつけないのですね。

 橋下さんの発言は、良くも悪くも目立ちます。今は政界から引退していますけど、次は何をしようとしているのでしょうね。とても気になっています。

#交渉力 #NetGalleyJP

2202冊目(今年222冊目)

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