『養老先生、病院へ行く』 養老孟司 中川恵一
あの病院嫌いの養老先生が、どうにも体調が悪くて東大病院の医師・中川恵一に診てもらうことになりました。問診をしていても呂律が回っていないし、糖尿病なのかガンなのか、いろいろと調べているうちにわかった病状はなんと「心筋梗塞」でした。
ここで読者の中には、次のような疑問を持った方が多いのではないでしょうか。 一 般的に、心筋梗塞といえば胸に激痛が起こるものだと言われているからです。確かに心筋梗塞の症状でよく知られているのは、激しい胸の痛みです。ところが、 養老先生はまったく胸の痛みの症状を訴えていませんでした。 これは養老先生が糖尿病だったからだと考えられます。糖尿病が進行して神経障害を起こすと、痛みに対する感覚が鈍くなることがあるのです。(本文より)
糖尿病のせいで痛みに対する感覚が鈍くなるなんて初めて知りました。通常なら痛いということで気が付く体調の変化に気づけなくなるのは怖いことですね。養老先生は「心臓の太い血管が詰まりかけていた」ことが判明し、ただちに手術を行い、なんと2週間で退院することができました。
ある程度の医療リテラシーを持っていれば、自分の体調の変化にも敏感になれるで しょう。 養老先生が言う「身体の声を聞く」ことができるのです。 医療リテラシーが 低い人は、身体の声が聞こえません。
がん検診などは全く受けていなかった養老先生が無事生還できたのは、自分の体の声を聴くことができたからなのです。だるい、眠い、痛いなど体調が悪いというサインを身体は出してきます。それを無視しなかった先生はギリギリのところで助かりました。その後、それまで気にしていなかった糖尿病については気を付けるようになったし、白内障の手術でレンズを入れ、眼鏡をかけずに本を読めるようになって喜んでらっしゃるのです。
ご自分は高度な医療に疑問を持っていらっしゃいますけど、愛猫まるのためには、ありとあらゆる治療をされる養老先生。自分という一人称の病気と猫という二人称の病気では考え方がまるで違ってしまうというところが臨床医の難しさなのかなと考えるあたり、やっぱり養老先生は様々なことを一生懸命に考える方なんだなと思います。
「病院に行くということは野良猫が家猫になること」とおっしゃる養老先生ですが、先生の心の自由さは常に野良猫レベルだと思いますよ。だから、たまには家猫のふりをしながら元気で暮らしていただきたいと思うのです。
ヤマザキマリさんを加えた3人での対談では、老いと医療について、いろいろと考えさせられるお話をしています。クオリティ・オブ・ライフを自ら考える必要を感じました。
2234冊目(今年254冊目)
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