『限界集落株式会社』 黒野伸一
IT企業を辞めた多岐川優さんは、もう誰も住んでいない田舎の祖父の家へやってきました。仕事はうまくいっていたけど、家族はいなくなってしまい、ひとりで少しのんびりしようと思っていたのです。ところが近所の老人たちが遠慮なく家にやってきます。最初はうるさいなぁと思っていたけれど、彼らとの交流が楽しくなってきてました。
いろいろと話をするうちに、この村の現実を知ります。過疎化が進んでバスもなくなり、店も何もないこの村を放っておいたら、あと数十年で消えてしまいそうな限界集落なんです。役場からは、麓の町に引っ越してくればいいと言われても、老人たちは長年住み慣れたこの土地から離れる気などさらさらなく、優さんはこの村をどうしたら生き返らせることができるのかを考え始めました。
都会で上手くやっていけなくて、農業実習にやってきた若者たち。最初は麓の町で受け入れるはずだったのに、この村に置いてくれということになりました。彼らをどう使っていくのかを考えるうちに、優さんには一つのアイデアがひらめいたのです。
村おこしって、そこにいる人だけで企画してもダメだし、外からやってきた人だけで企画してもダメなんですね。両方の考え方をすり合わせて、とにかくやってみる、ダメだったら別の方法を考える。その繰り返しなんだなぁ。
今までやったことがないことにしり込みをするのは簡単だけど、やったことがないからこそやってみる価値があるんだって気づけるかどうか、エイってやってみる勇気、そういうものが大事なんだなってことが、この物語の中にはたくさん出てきます。
そして信頼ですね。この人の言うことなら聞いてみよう、この人がやるっていうならついていこう、という気持ちが生まれる関係を築けるかどうか、そこが大事なんですね。
優さんは、この村おこしが上手くいったら東京に帰ろうって思ってたんですけど、そんな気持ちでいたらダメだって気がつくことになったラストがよかったな。
2233冊目(今年253冊目)
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