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『同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか』 鴻上尚史 佐藤直樹

同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか

鴻上尚史(こうがみ しょうじ)

佐藤直樹(さとう なおき)

講談社現代新書 2579

僕はSNSの最初のSは「Seken(世間)」の略だと思っているんです。Social ではなくて Seken。だから「Seken Networking Service」。ネットの中で「世間」を作っちゃうわけですよ。その延長線上にネットにあふれる罵詈雑言がある。やっぱり「世間」の圧力感とか閉塞感とかが常に根底にあるんですよ。しかもコロナによって格差が拡大する。貧困の問題も深刻になる。それが事情に端的なかたちになってきているという感じがするんですね。だから、たたき方も尋常じゃなくなっている。これもまた、みんなが平等でなければいけないと思い込む「世間」の一つの姿だと思います。つまり標準を少しでも外れたものに対するバッシングですね。(佐藤)

 この解釈は言い得て妙ですね。「Social ではなくて Seken」社会ではなく世間のネットワークだから、自分が属している世間の話として聞いている人が、世間の問題として正論を戦わせようと思ってしまうんだなぁ。だから、常軌を逸したたたき方をするし、その本人だけでなく家族や友人までも非難する対象にしてしまうのが怖いです。

 「親の顔が見たい」という表現は、こんな人間になってしまったのは親の育て方が悪いという意味ですけど、いい年をした人間に対してこんなことを言うのは、人を個人として見ていないということですよね。でも、こういう感覚を変だと気が付かない日本社会って、空恐ろしい気がします。

 

「ハーバード白熱教室」では、「これについて答えられる人?」というと、みんな手を挙げる。大したことは答えないんだけど、一応みんなが答えるわけです。それはハーバードだからできているわけではなく、アメリカでもヨーロッパでも、小学校から大学まで、そうした授業が不通におこなわれています。日本とはぜんぜん違うんですね。
日本の場合は、手を挙げる前にまず周りを見るわけですよ。周りが挙げていなければ、自分も上げない。それはつまり、「世間」を学んだ証拠でもある。(鴻上)

 鴻上さんが小学生を集めて話をしたときに、話が始まってからかなり時間がたっているのに、誰も持参した水筒から水を飲もうとしていないので、鴻上さんが「好きな時に飲んでいいんだよ」と声をかけたらみんな飲み始めたんですって。「学校では自由に水を飲んじゃいけないの?」と聞いてみたら、授業中には先生がいいと言わなければ飲んじゃいけないと答えが返ってきたそうです。

 「えっ?」って思いませんか。のどが渇くタイミングは人それぞれでしょ。先生の指示がないと水も飲めないなんて、まるで刑務所じゃないですか!みんなが勝手に水を飲み始めたら収拾がつかなくなるってのが学校側の説明なんだそうですけど、その程度の自主性も許せないようだから、ブラック校則も生まれてしまうのでしょうね。

 

日本人の多くは生まれてこの方、「他人に迷惑をかけない人間になれ」と家庭で言われて育ってきた。「犯罪を起こさない人間になれ」とは言われないわけです。日本では犯罪を犯すことは稀だからです。だからこそ「世間のルール」に反するようなことをやってはだめだ、「世間」から白い目で見られたり、バッシングされたりする方が怖いのだと教えられる。「世間」に迷惑をかけるな、他人に迷惑をかけないような人間になれと。(佐藤)

 世間という村社会ルールがあるからこそ、「自粛」だの「忖度」だの「普通でめだたないのがいい」という価値観が生まれてしまう日本社会。このままだと、この国は衰退の一途ですねぇ。

 

海外で自己肯定感が高いというのは、あくまでも「個人」がベースですから、常に何か主張していないと人間扱いされないといった事情があります。日本人はそもそもそんなことをしなくたって生きていけるから、逆に目立ってしまうとハブられる。それが怖いんですよ。自己肯定感が低くて当然です。(佐藤)

 自己肯定感が低いから、一回倒れたら立ち直れない。鬱になる人、自殺する人が増える。とんでもない負のスパイラルがこの国をジワジワと弱らせているのです。そういうことを真剣に考えている人が、日本にはどのくらいいるのかしら?

 明日はきっと明るい日になるって信じられない人が増えつつあるこの国は、これからどうなっていくのか、とても怖いなと思うのです。

2241冊目(今年261冊目)

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