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『標準語に訳しきれない方言』 日本民俗学研究会 編

標準語に訳しきれない方言

日本民俗学研究会 編

彩図社

 方言というのは、その地方ならではの言葉です。雪がたくさん積もる地方では、雪に関する表現がたくさんあるし、海に近い地方だったら魚や波などに関する表現が増えるわけです。同じことを表現していても、違う言葉であることもあります。方言は人間が生きていく中で生まれた生きた言葉ですから、それぞれに面白い地方性がにじみ出ているのです。

 

・ひにちぐすり
 英語にも 「Time heals all wounds. (時間はすべての傷を癒す)」といった決まり文句があるが、「日にち薬」もこれと同じく、心を慰めてくれる優しい言葉である。
 使用例:「あとは日にち薬やで」 (あとは自然に治るのを待とう)

 元々は近畿・中国・四国での表現なんだそうですが、最近はほかの地方でも使うようになってきた言葉ですね。辛かったことも時が過ぎることによって徐々に薄まっていくという表現は、今の時代にぴったりの癒しの言葉だなぁと思います。

 

・ただぐち
 意味:ごはんとおかずを一緒に食べないこと
 日本には「口中調味(口内調味)」という概念がある。 味付けしていない主食 (白いご飯)と、味のついたおかずや飲み物を一緒に口に入れ、口の中で噛んで混ぜ合わせながら味わう食べ方である。日本人にとってご飯とおかずを一緒に食べることはも はや当たり前になっているが、これを行わないことを鳥取では「ただぐち」と呼んで いる。 梅干しや納豆などのご飯のお供をご飯なしで食べるようなときに使う。 口中調味を行う習慣があるのは日本を含む一部の国だけなので、世界的に見てもわりと特殊な言葉かもしれない。
 使用例:「ただぐちで食べちゃーいけんがな」 (おかずだけで食べたらいけないよ)

 ごはんとおかずを口の中で一緒にして食べる習慣は世界的に見て珍しいということを、初めて知りました。なるほどねぇ、だから白飯は万能なんですね。パンだとおかずとは別に食べますよね。「総菜パン」というのが日本で生まれたのは、主食とおかずを一緒に食べたいという欲求からなのかもしれません。

 

・ごまめ
 意味:鬼ごっこでつかまっても鬼にならない 特別ルールを与えられた小さい子ども
 子どもの遊びで、集団の中で特に小さい子どもが特別に ペナルティを免除される習慣がある。そのような子どもを、 関西では「ごまめ」、関東では「おまめ・おみそ・みそっかす」 と言うことが多い。 その他、東北では「あぶらご・あぶら むし」、東海では「とうふ」、九州では「ままこ」など、地域ごとにさまざまな言い方があるそうだ。
 使用例:「ごまめやから鬼にならんでかまへんで」 (特別だから鬼にならなくてもいいよ)

 わたしが子どもだったころの東京の下町では、誰かが自分の弟や妹を連れてきたら「おまめ」にして一緒に遊ぶというのは普通のことでした。今思えば、これはOJTなんですよね。こうやって遊びを憶えていくって、いいシステムだなぁって思います。これは人の優しさから生まれたことばですよね。

 

「ムニバッキッタ 島バッキ、島バッキッタ これは沖縄の竹富島のことわざで、「(生まれ育った島の)言葉を忘れたら島を忘れ、 島を忘れたら親を忘れる」という意味だ。ちなみにこの竹富島で話される八重山語も、親バッキルン」消滅危機言語の一つである。
「標準語に訳しきれない方言」も含め、微妙なニュアンスを含んだ方言というのは、 その土地の文化の一つである。その文化を存続させるためにも、また故郷を忘れないためにも、生まれ育った土地の方言を大切にしたいものだ。(おわりに より)

 日本中で標準語を話すようになってしまったのはテレビのせいだと言われてますけど、言葉だけでなく、生活習慣や、考え方まで同じになりつつあるような気がして、とても怖いなぁと思うんです。日本は小さな国のようでいて、人口も多いし、気候も地形も多様な国です。それぞれに独自の文化があって、みんな同じになるなんてことはありえないんです。なのに、同化しつつあるのは何故なんでしょう。

 自分のルーツを大事にしていこうという気持ちは、地球を守ることにもつながるのではないかと思います。SDGsなんてお題目より、方言を守ることの方が地球にやさしいと思うんですけど、どうでしょうか?

2232冊目(今年252冊目)

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