『ひきこもり図書館』 頭木弘樹 編
コロナ禍で外出ができなくなり、不本意ながら引きこもり生活をすることになってしまった人が大勢生まれました。最初のころは学校に行かなくていいんだ、会社に行かなくていいんだ、満員電車に乗らなくていいんだなんて思うことで気を紛らわしていたけれど、在宅で勉強や仕事をしなければならなくなり、我が家には椅子も机もないということに初めて気が付いた人も大勢いたことでしょう。
リモートワークやリモート学習する人のために、息をひそめていた家族もいたでしょう。運動不足で体調が悪くなった人も、一人暮らしで誰ともしゃべれなくてストレスがたまった人もいたでしょう。
この本では、様々な理由からひきこもり生活をすることになった人が主人公の物語が展開していきます。ひきこもり生活が快適だと思う人、単調な生活に飽きてしまう人、閉じ込められた生活を強要される人、それぞれがいろんなことを考えています。
わたしが一番興味を持ったのは萩尾望都「スロー・ダウン」でした。無音で誰とも会わずに10日間生活する青年を観察する実験の話です。外界の情報は全く与えられず、時計もなく、たった一人で過ごすのがいかに苦痛なのか。それが被験者の精神にどんな影響を与えるのか、嫌な実験だけど、きっと世界のどこかでやっていそうな気がします。
ひきこもっている生活であっても、外の世界があるからこそ成立しているのです。同居している人がご飯を作ってくれている場合もあるし。一人暮らしだとしても通販で何かを買ったりしているわけです。そういう外界の人がいなくなったら、自分は生きてはいけないという恐怖にかられる萩原朔太郎の作品に不思議な魅力を感じました。
ひきこもって外に出ないまま、死体となって発見されるという現実をニュースで知ることが増えています。それを良しとするのか、嫌だと思うのか、そこがひきこもりが終了するかどうかの分かれ道であるような気がします。
この12編が収められています。
◎萩原朔太郎「死なない蛸」
◎フランツ・カフカ「ひきこもり名言集」
◎立石憲利「桃太郎――岡山県新見市」
◎星新一「凍った時間」
◎エドガー・アラン・ポー「赤い死の仮面」
◎萩原朔太郎「病床生活からの一発見」
◎梶尾真治「フランケンシュタインの方程式」
◎宇野浩二「屋根裏の法学士」
◎ハン・ガン「私の女の実」
◎ロバート・シェクリイ「静かな水のほとりで」
◎萩尾望都「スロー・ダウン」
◎頭木弘樹「ひきこもらなかったせいで、ひどいめにあう話」
2239冊目(今年259冊目)
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