『再起は何度でもできる』 中山雅史
日本のサッカー選手の中で誰か一人の名を挙げろと言われたら、わたしは何の迷いもなく「ゴン中山」と答えます。試合中の彼は「走る、ボールを蹴る、倒れる」その連続でした。フォワードでありながら、攻め込まれているときには守備の人でもありました。その熱いプレーが大好きでした。
たとえば高校時代の僕は、武田修宏のプレーを見るたびに、「本当にうまいな。武田は生まれながらのストライカーだ。とてもじゃないけどかなわない。悔しいな。うらやましいな。武田みたいになりたいな」と思った。
でも、僕は武田修宏にはなれない。違う人間なんだから当たり前だ。だったら、自分は自分で別の武器を磨き、同じ場で勝負できればいいじゃないかと、気持ちを切り替えた。武田があまりやらないプレーでもいいから、点を取れるようになりたいと思っていた。
身体を張った僕のプレースタイルは、こうした思考の中から生まれてきたものだ。(本文より)
ゴン中山は、他のサッカー選手のことをしっかりと観察しています。早くから注目されていた武田と同じことはできない。だから、違う部分でやっていくしかないとこのころから考えていたのです。フォワードではなくディフェンスとして試合に出ていた時期もあります。それが悔しかったから頑張ったということもあるでしょうけど、ディフェンダーとしての視点も持ち合わせたフォワードであるというところがゴン中山の特徴であるとも思えます。
振り返ると、僕は常に「代表になるために、今、何をすればいいか」を考えていた気がする。静岡県選抜に入りたい、次は大学選抜、その次はB代表と、自分が求める場所に立つために何が足りないかを自問自答し、一段ずつステップを上がっていくうちに、遠いと思っていたその場所に、いつの間にか近づいていた。その積み重ねが、はるか先にあった「日本代表、W杯出場」という目標へと、徐々につながっていったのだと思う。
器用じゃないから、一歩ずつ前進していたんですね。それがよかったのかもしれません。だから、燃え尽きるなんてこともなかったし、少しずつステップアップできたのでしょう。
僕はサッカーがヘタだから「泥臭くても、武骨でも、愚直でも、勝ちきる力が大事なんだ」と自分自身に言い聞かせてきた。そりゃあ僕だってスマートでカッコいいプレーがしたい。でも、それができないから泥臭さや愚直さや走りぬくことを追求した。
そこまで行かなくてもいいんじゃないと思うようなところに身体を投げ出すことが、チームのチャンスにつながるかもしれないし、自分の力になるかもしれないと思っていた。そういうプレーが自分には求められているんじゃないか、とも考えていた。それをしないとピッチに立てない、ということも 。
美しいパスを出す、華麗なシュートを打つ、そういうことができる人は他にいくらでもいるから、自分は身体を張って、献身的に走り続けるということを選んだゴン中山はカッコよかった!
そんなプレースタイルだから、ケガは日常茶飯事。膝の半月板がないのになぜ走れるんだと、医者からも不思議がられるほどでした。
2021年1月、ジュビロ磐田のコーチに就任しましたが、まだ引退とは言っていないところがゴンちゃんらしいなと思います。
スランプは天才や実力のある人がなるもの
ゴン中山の言葉は重いなぁ!「自分はサッカーがヘタだから努力するしかないんだという」意志の強さに、心を打たれます。こういう気持ちの強さを、これからの若いサッカー選手たちにも持ってもらいたいと切に願います。
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