『塀の中の残念なおとな図鑑』 美達大和
はじめまして。美達大和といいます。無期囚として某LB級刑務所にて服役中の61歳になるものです。刑務所にもグレードがあるのです。Lは刑期10年以上の長期刑のロングのL、Bは犯罪傾向が進んでいる(悪質ということです)、ヤクザ、その関係者、再犯者を示すものでLB級となります。
要は極悪人、凶悪犯罪者などとメディアで呼ばれている者の刑務所です。(はじめに より)
無期囚であっても、模範囚であれば刑期が短くなることもあります。でも美達さんは、自分の罪の重さを考えると、二度と社会に戻れないと考えています。ですから、通常の作業が行われる工場には行かずに独居房で作業をしています。この行為自体が、命令に従っていないと判断されるので仮釈放の対象にはならず、実質的に終身刑になるのです。
独居房であっても軽作業を行い、他の人たちにはまねのできないような作業量をこなしています。これが自分に課せられた償いだと考えているのでしょうか、美達さんは日々作業を続けています。休み時間には本を読み、文章を書いて、10冊以上の本を発表しています。
刑務所内では運動の時間というのがあります。8畳ほどの部屋で40分くらい歩きます。ここで様々な囚人たちと歩きながら話をするのが、美達さんの楽しみです。
よく映画で、刑務所の中庭を歩きながら話をしている人たちの場面がありますけど、こういう場所で様々な犯罪の話が行われる可能性が高いので、刑務所によっては会話禁止というところもあるそうです。
とにかく人と話をするのが好きだという美達さんは、様々な話を聞きだします。どうしてここに来ることになってしまったのか?自分がやってしまった犯罪のことをどう思ってる?家族は?シャバに出たら何をしたい?
更生して、ここには戻ってくるなよと言いたいのが本心ですけど、そんなことを言っても意味がない人が大勢います。それはしょうがないということはわかっています。でも、数人であってもいいから、わかってくれる人がいればいいなと美達さんはいつも思っています。
刑務所という場所は、自分が犯した罪を反省し更生して社会復帰するための場所だと普通の人は思っています。でも、現実はかなり違っています。まず何が違うかと言えば、「自分が犯した罪」を悪いことだと認識していない人が大勢いるのです。いったん出所しても、ばれなければいいだろうと再犯を繰り返す人がとても多いのです。なぜ自分がやったことを悪いと認識できないのか?それには大きく分けると2種類の理由があります。
1つ目の理由は、自分が捕まったのは、運が悪かったからだと思っている人が多いということです。だから次は見つからないようにうまくやるぞと思ってしまうわけです。刑期中も、次はうまくやるぞって思っている人が多いのには笑ってしまいました。
もう一つの理由は、自分がやったことが悪いことだと理解できない人だからなのです。発達障害、コミュニケーション障害、知的障害などが原因で誰かに命令されたことを悪いことだとも思わずにやってしまったり、他人のものを勝手に持って行ってはいけないということがわからなかったりという人がかなりいるのだそうです。
オレオレ詐欺で、自分の祖母のような歳の人を騙して悪いと思わないのか?と言われても、あの人たちはお金持ちなのに使い道がないから、取ってもいいんだという論理をかざす人って、自分のおばあちゃんがそんな目にあったらどうしよう?という想像力すらないんだというところに愕然としてしまうのです。
保護会(一種の寮のようなもので、食事も出されるかわりに門限があり、入浴も週に何回と決まっています。部屋は基本的に個室ですが、出所者同士で悪の道(犯罪)に走ることも少なくありません。住む分はタダです)が各地にあったのですが、ここは仮釈放ではなく、満期出所者には敷居が高く、そのため満期出所者は出所しても住むところがありませんでした。今は法務省の施策の一環として、満期出所者でも安価で、かつ食事も低料金で出る住居が用意されるようになっています。保護会のように、刈谷区報の出所者の満期日(刑が終わる日)が来たら、施設を出なくてはならないとはならず、希望があれば長くいられます。もちろん全くのタダではないので職を探さねばなりませんが、以前に比べると、住居の確保は社会生活での大きなメリットになりました。
大半の老チョーエキは出所が近くなっても喜ぶことはなく、中には不安や、みんなと別れるのが辛く(老チョーエキは出所した日から、再び孤独と孤立の日々が始まるのです)、涙を流す人もいました。こうなると、刑務所は最後の福祉施設を通り越し、骨をうずめる場です。
要は、塀の中はいやになるほどの不自由でもなく、三食と住むところの心配なく、話し相手もそれなりにいるからいいってことだね。
自分を待っていてくれる家族や友人がいる人は幸運です。そういう人は社会復帰できる可能性が高いのです。でも重犯してしまうほとんどの人たちには、待っていてくれる人がいないのです。
昨今、刑務所への再入社(再犯)の割合は6割を占めています。そのうち、無職者の再犯は、有職者の約3倍にもなるのです。法務省、政府は再犯防止に力を注ぎ始め、福江中から社会復帰に備えた職業訓練、就労支援プログラムを用意して、ハローワークと連携した受刑者向けの専用求人制度も定めていますが、その効果については十分とは言えません。
様々な理由で刑務所へやってくる人たち、とんでもない悪人というのはそんなにいないけれど、社会と適当な距離感を持てない人が多いのです。子どものころから少年院や鑑別所、児童保護施設などにいたことがある人がとても多いのも気になります。寂しさや辛さをうまく表現することができない人、人との関りが上手くできない人が犯罪者になってしまうのは、親や大人や社会の責任のはずなのに、辛いのは本人だけなのです。
刑務所へ入って、初めて医者に診てもらったという人もいます。ここでやっと衣食住の心配をしなくてよくなったという人もいます。自分と同じような境遇の人に会えてほっとしたという人もいます。刑務所の方が生きていくのが楽だと思う人がこんなにも多いというのは、なんだかやるせない気持ちになってしまいました。
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