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『パンデミックの文明論』 ヤマザキマリ 中野信子

パンデミックの文明論

ヤマザキマリ

中野信子(なかの のぶこ)

文春新書

お二人の対談はオンラインで行われました。

(中野) 一度お聞きしてみたかったんですけど、日本で「みんなと同じようにしなさい」と教えられるのと対照的に、イタリアなどヨーロッパの学校では、「みんなと同じことをしたらバカですよ」と教えられるのではないですか?
(ヤマザキ) そうですね、人と同じことをするのは想像力の欠如とみなされますから、学校の口頭試問でも人と同じことを言うと良い点はもらえません。個性や独立心を重視する。長いものに巻かれない人が評価される世界です。だから今回パンデミックが始まりかけた時、一番違いが顕著に出たのが各国首脳の演説です。ドイツのメルケル首相の演説がそれを示していました。(p33)

(ヤマザキ) 演説というのは、古代からの伝統の上に築かれた民主主義の形だと言えます。西洋ではそれぞれが考えを言語化し、ディベートの無い政治は民主主義ではないと捉えている。日本も民主主義の体裁は撮っていますが、そこが西洋式との根本的な違いのように思えます。日本では演説という教育に重点が置かれていませんから、考えを言語化する訓練もあまりしてきませんでした。欧州なら紙を見ながらでないとしゃべれない人はまず首相には選ばれないでしょう。それに、頭の中で自分の意見がしっかりとした言語に変換されていれば、目という機能を使ってより効果的な演説を展開することもできます。でも日本の社会ではそういったスキルは重要視されていませんよね。
(中野) むりやりヨーロッパから民主主義の苗木をもってきて日本の土に植えたけど、うまく育てるのにてこずっているという感じが、日本の近現代の姿かもしれませんね。(p35)

 良いことも悪いことも正直に話してくれるという信頼感が欲しいなと、わたしは常々思っています。ですからメルケル首相や、英国のボリス首相が話をしているところを見るたびに、いいなぁと思うんです。自分の言葉で、自分の感情を込めて、話を聞いている人の目を見て話をする人が国を束ねているということを羨ましく思います。

 原稿を握りしめて、それすらも誤読したり、ページを飛ばしてしまうような人の話なんか聞くに値しません。そうでしょう、みんなに話を聞いてもらうためには話術が必要です。そのための努力を怠っていることがみえみえな人の話なんか聞きたくありません。

 

(中野) 女性のリーダーの国のコロナ対策が上手くいっているのは、女性だからというよりは、女性を指導者に選べる国だからなんです。実力があれば別に女性でも男性でもいい。
蔡英文相当のもとで頑張ったIT大臣、唐鳳(オードリー・タン)ですが、学歴の高くない彼女がコロナ対策に実力を発揮できたのも、台湾がリーダーを実力で選べる仕組みの国だったからこそ、だと思いますよ。(p159)

 今回の衆議院選挙で女性議員が減ってしまったのは、今の与党は「女性活躍」なんて考えていないということの証明ですよね。これまで権力を握っていた人が、それを絶対に手放したくないという悪あがきの結果がこれですもの。これじゃ日本は変わらない。

 

(中野) 戦前のような軍部もない国なのに、民衆の検閲が厳しいってすごくないですか?
(ヤマザキ) だから、いいかえると「世間体の戒律」が厳しいんです。もし自分がこれに感染して、ウイルスをまき散らしていたことがご近所に知れ渡ったら、朝のゴミ出しもできなくなる、どうしよう・・・もう、あらゆることが頭をめぐるわけです。(p199)

 日本のコロナ対策で最も強力だったのが「同調圧力」ってことなのかしら?だとしたら、よその国ではマネはできませんね。コロナが少しずつ終息しつつある状況ですけど、鎖国が解けた後どうなっていくのかしら?

 

 コロナ禍で、いろいろなことを考える時間ができました。むりやり満員電車に乗って会社へ行かなくてもいいとか、こういう仕事はいざという時に最初に不要だと言われてしまうんだなとか、これまで当たり前と思っていたことを見直すことができました。コロナ前と同じように仕事をしたいと思う上司がいても、部下は「ああ、無駄なことばかりしていたんだ」ということに気づいてしまいました。

 オフィスが都会になくても、毎日会社に出社しなくても大丈夫ってことに気づいた人からアクションを起こしています。会社に100%頼るのはやめて副業しようと行動し始めた人も増えました。

 国が変わろうとしなくても、個人は変わろうとしています。その違いをどう乗り越えていくのか、そこがこれからの日本の課題なのでしょう。

2256冊目(今年276冊目)

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