『新装版 美輪明宏 天声美語』 美輪明宏
淡谷さんはこの世の中にいちばん必要な「美意識」をたっぷり身につけていた人でした。
「死んでいく兵隊さんを見送るのに汚い姿は絶対にいや、せめて美しい姿で唄い送りたい。美しい日本の流行歌を聴いて、旅立ってほしい。そのためには殺されてもかまわない」という強い意志のもと、戦争中の慰問で軍刀をつきつけられてもけっしてモンペをはかなかった。鮮やかなドレスと化粧で、禁じられたブルースを歌うのをやめなかったのです。その反骨精神、その心意気。(本文より)
社会そのものだって変わります。乗り物はもちろん、会社も学校も友達の家も、どこへ行っても美や遊び心がある。日本中がそうなれば、みんなノイローゼにもならないし、人殺しもしなくてすむ。忌まわしい少年犯罪だって怒らなくなるでしょう。そう、”美意識”というのは、ぜいたくなものでも、生きていく上での余剰のものでもない。それこそが世界を活性化させ、社会を変えていくうえで、空気や水のように必要不可欠な原動力になっていくものなのです。
その美の力を無視して、みんな目先の利益と機能性と利便性と経済効果という、数字ばかり追い求めているから、不安になってイライラしてしまう。そして、劣悪な環境を作り、知らず知らずのうちに精神までも病んでしまう。そんなに焦らず、急がず、少し立ち止まって考えれば、自分たちが悪循環に陥っていることぐらい、すぐに気づくはずなのです。
世の中を動かしている人たちは、どうも数字が好きでしょうがないようなのです。コロナ過が落ち着いてきたと思ったら、最初に言い出したのは「経済を回す」という言葉でした。もっともらしい理由をいろいろというけれど、どうもわたしには納得できないのです。コロナ過で失ったのはお金だけなのでしょうか?もっと大事なものもなくしてませんか?
そんな中、「医療従事者の賃金を月4000円アップします」という報道にはビックリです。桁が違うと思うんですけど。命がけで働いて、たったそれだけ?その程度の評価しかしてくれないというのが悲しく仕方ありません。
行動制限され、人と触れ合うことが減り、みんなが失ってしまったのは「心のうるおい」ではないかと思うのです。友達とのたわいもないおしゃべりや、大事な人との時間や、働くことや、遊ぶこと、美しいものやすばらしいものを見たり聞いたりすることに関しては、まだまだ不自由な状態です。
スポーツ観戦などと比べて、観劇やライブ音楽はまだまだ不自由な状態です。こういう美を感じる時間がわたしたちには必要なのです。美しいものに感動すると、心がうるおいます。心が満たされると、嫌なことを考えなくなります。
でも、こういうことは不要不急だって言われてしまう、それが悲しい。
日本以外の国では、可愛ぶった、鼻にかかった高いカナ切り声の話し方は、バカだと思われるのです。日本の男たちは、幼稚で自信がないので、大人の女性は苦手なのです。自分よりバカに見える女を見て優越感を感じ、可愛いというのです。そういうくだらない男たちにもてたい一心で、どんどんバカになっていく必要がどこにあるというのですか。
もはや頭でっかちで幼児癖のある政治家やえせ知識人たちに何を期待してもダメ。彼らにはこの国は変えられない。変えることができるとしたら、それは、まだ頭も心もじゅうぶん柔らかいあなたたちです。それを忘れないでください。
若い人たちに期待することはたくさんあります。それと同時に、歳を重ねた人たちにも考え直してほしいことがたくさんあります。その中で一番大事なことは、若い人たちの邪魔をしないということ。それに尽きると思うのです。若いからと言ってバカにするのではなく、若いからこそできるパワーを信じることこそが、年長者の役目だと思うのです。
歳だけ重ねても大人になれるわけではありません。真の意味での大人が増えないと日本は良い国にはなりません。美しい心を持った大人であるためには、常に美しいものに接している必要があるのですね。美輪さん。
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