『中野京子の西洋奇譚』 中野京子
この本には西洋の21の怖い話が集められています。「ハーメルンの笛吹き男」や「さまよえるオランダ人」など、昔の話は結構知ってるのがあったのですが、比較的新しい話で知らないものがあり、「ホワイトハウスの幽霊」と「ディアトロフ事件」が印象的でした。
第16代大統領リンカーンは「人民の人民による人民のための政治」という演説。また南北戦争を集結させて奴隷解放宣言を発布したことで歴史に名を遺した。だが奴隷解放に反対する暗殺者によって、芝居の観劇中に打ち殺された。
第35代大統領ケネディも人種差別問題に取り組んだ。またキューバ危機を乗り越え、宇宙開発や対ソ協調外交でも成果を出し、これからいっそうと期待されたさなか、ダラス遊説のパレード中に狙撃された。
活躍した時代におよそ一世紀の開きがある2人だが、奇妙な一致点が異様なまでに多い。
- リンカーンが連邦下院議員に初当選したのは1846年、その100年後の1946年にケネディが連邦下院議員に初当選。
- リンカーンの大統領選出は1860年、ケネディの大統領選出はそのちょうど100年後の1960年。
- リンカーンはフォード劇場で撃たれ、ケネディはフォード社製リンカーンに乗っていて撃たれた。
- どちらも後頭部を狙われている。公衆の面前での暗殺の場合、普通は腹部を狙うことが多いにもかかわらずだ。
- どちらも撃たれたのは金曜日(イエスが磔刑された曜日なので、キリスト教徒にとっては特別な意味合いを持つ)。
- リンカーンを殺したブースもケネディを殺したオズワルドも、裁判にかけられる前に射殺された。
- 両大統領の後を継いだ副大統領はどちらも南部出身の民主党員で、名はジョンソン。アンドリュー・ジョンソンは1808年生まれ。リンドン・ジョンソンは100年後の1908年生まれ。
「ホワイトハウスの幽霊」の中で指摘されていた、この「リンカーン大統領とケネディ大統領の奇妙な一致点」にドキドキしてしまいました。これ以外にも一致している点が多く、これを偶然と言っていいのか?何かの力が働いていたとしか思えないのです。
1959年1月。ソ連のウラル科学技術学校(現ウラル工科大学)のエリート学生たちを中心とした若者10人の一隊が、真冬のウラル山脈をおよそ2週間の工程でスキートレッキングすべく、エカテリンブルグを出発した。
隊長は大学4年生のディアトロフ(この事件名は彼の名にちなんでつけられた)。他に男7人、女2人。皆20代前半だったが、男性のうち1人だけが30代前半の元軍人。インストラクターとしてついて行ったとされる。(ディアトロフ事件)
彼ら全員が亡くなったのですが、その状況が異常なのです。テントは内側から破られ、全員がばらばらに外に逃げたらしいのです。マイナス30度の冬山だというのに、全員の遺体は靴を履いていなかったのです。服を脱ぎ捨てていた人もいました。彼ら全員の死因は低体温症でした。
何かに驚いてテントから飛び出したとしか思えない状況なのです。調査は何度も行われましたし、様々な説を唱える人もいるのですが、結局この事件の真相はわかりません。
長く言い伝えられてきた話がいろいろあります。人々の不安が恐れが魔女や魔物を生み出したのでしょうし、自然が生み出す「ブロッケン現象」のようなものに対する恐れもあったのでしょう。不思議なこと、怖いこと、酷いこと、人間はいかに愚かなのかを語り継ぐ話が多いのは、経験を無駄にしてはいけないという人間の知恵なのでしょうか。
不思議な話は、怖いけれど、やっぱり面白いのです。だから、いつまでも語り継がれるのでしょう。
この本で紹介されている21の奇譚
- ハーメルンの笛吹き男
- マンドラゴラ
- ジェヴォーダンの獣
- 幽霊城
- さまよえるオランダ人
- 大海難事故
- ゴーレム
- ブロッケン山の魔女集会
- 蛙の雨
- ドラキュラ
- 犬の自殺
- ホワイトハウスの幽霊
- エクソシスト
- 貴種流離譚
- デンマークの白婦人
- ドッペルゲンガー
- コティングリー事件
- 十字路
- 斬られた首
- ファウスト伝説
- ディアトロフ事件
2247冊目(今年267冊目)
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