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『雲を紡ぐ』 伊吹有喜

雲を紡ぐ

伊吹有喜(いぶき ゆき)

文藝春秋

 美緒は自分の居場所がどんどんなくなっていくという思いに駆られています。学校でいじめられ、家では両親の愛を感じることができず、自分が大事にしているものを母親に棄てられてしまったことをきっかけに、父方の祖父の家へ行こうと決心したのです。

 祖父は、なぜここに来たのかを聞いてくれて、自分を受け入れてくれました。そんな祖父が手掛けている羊毛から作る糸、織物(ホームスパン)に美緒は心惹かれるようになったのです。

 美緒は自分が何も決められないと悩んでいます。何が欲しいの?何がしたいの?聞かれるたびに、答えが出ない自分にいら立つのです。

 彼女みたいな人はきっと大勢いるのでしょう。決められないのは、その元となる知識や経験が圧倒的に不足しているということなのだと、わたしは思います。いい学校へ行って、勉強して、それだけで育ってしまった人は、現実に何があるのかを知らずにいるのです。

 美緒のように都会の進学校へ通っているような子は、特にそういう傾向があるんじゃないかしら。会社や役所に勤める以外の仕事があることや、田舎のお祖父さんの暮らしのことなんて想像したこともなかったんだろうなぁ。

 自分の親のことだって、母は教師、父は家電メーカー勤務、という程度しか知りません。両親が仕事のことで悩んでいるとか、両親の親との確執のことなど全く知りません。親子なのにお互いのことを全くわかってないから、本当は相談したいのに何から話していいのかわからないという状態なのです。

 親の方も全く同じ状態で、自分たちの娘が何を悩んでいるかということより、学校へ何故行けないのか?その理由を何故言わないのか?と責める言葉ばかり。

 

美緒についていえば、相手を従わせようとして黙っているわけではない。気持ちをうまく言葉にできず・・・。あるいは人に言うのがつらくて、何も言えないでいる。ただ、それだけだ。せき立てずにゆっくり見守ってやれば、あの子の言葉はしぜんにあふれてくる

 数か月一緒に暮らしただけで、お祖父さんは美緒のことを理解してくれました。毎日一緒に食事して、話をして、仕事をして、彼女の人となりがわかってきたからです。美緒が自ら説明できるようになるまで待とうと言ってくれたのです。

 

 良いことも悪いことも、話し合ったり、喧嘩したり、笑ったり、泣いたり、そこからお互いのことがわかるようになる、わかりあえるから許すことができる。それこそが家族なのですね。

 

言はで思ふぞ、言ふにまされる

 岩手(磐手)の語源であるというこの言葉や、宮沢賢治にまつわる話が色々と登場して、美緒のお祖父さんが住む岩手の魅力が色々と登場しました。岩手山や北上川など自然豊かな地で美緒はきっと、自然体で生きられる人になっていくのでしょう。そして両親も美緒の問題と正面から対峙することで何かを見つけたのだと信じたいです。

2296冊目(今年316冊目)

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