『パラリンピックブレイン』 中澤公孝
パラ競技を見る度に「どうして、そんなことができるのだろう?」と驚かされます。地上では車いすで移動している人が、水泳の選手として力強く泳ぐ姿にワクワクし、義足のジャンパーがの走り幅跳びでなぜあんなに飛べるのだろう?とドキドキし、車いすバスケットの選手たちのシュートの鮮やかさにビックリするのです。
この本の中で取り上げられているアスリートの脳の働きを見ると、健常者の常識では考えられないことが起きているのです。たとえば脳性麻痺のスイマーの場合、地上での動きはぎこちないのに、水中では「水を得た魚」のように泳ぐのです。地上では滑らかに動かすことができない腕が、水中では力強く動かせるのです。
地上では転倒の恐れがあるので動きに制約が出てしまう人でも、水中では浮力があって身体が自然に支えられているので転倒する恐れを感じないで動くことができるのが、その要因なのではないかと著者は言っているのですが、これはすごい発見だと思うのです。
本当はもっと動くことができるのに、心理的な制約で動けなくなっている可能性もあるというのは、研究の余地がかなりありそうな部分だと思います。
義足を使用して、日常生活にはない高度なスポーツスキルのトレーニングを継続的に実施すると義足を最終的に操っている筋の神経支配は通常の片側交差性支配から両側支配に変わる(本文より)
義足のジャンパーであるレーム選手の脳を調べているうちに発見したこの事実はものすごいことなのです。通常わたしたちが動くときに右足を動かすには左側の脳、左足を動かすには右側の脳が機能するのですが、レーム選手の義足側の足(右)を動かすときには両側の脳が働いているというのです。
これまで使われていなかった脳が動き出す、つまり新しい能力が生まれるということです。
ということは、障害のあるなしに関わらず、今まで気が付いていなかった能力の開発が可能かもしれないのです。これもまた凄い発見です。
電動車いすでサッカーをしていた人の話を読んでいると、たとえ制約があったとしても、スポーツをすることの喜びが今まで使えていなかった能力を使えるようにしているという側面もあるような気がします。
人類には、まだまだ未知の能力があるのでしょうね。そんな希望を感じる本でした。
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