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『月のいろ』 今中浩恵

月のいろ

今中浩恵(いまなか ひろえ)

幻冬舎

 いつも行く図書館の特集コーナーの「冬に読みたい小説・エッセイ」の中で、この本の表紙がとても印象的だったのです。2階建ての家が並ぶ住宅街、こんな景色をこのごろ見てないなぁ。

 初老の女性、希美さん、和枝さん、葵さんの3人が暮らすシェアハウスに、幼い子供を連れた若い母親レナが転がり込んできました。本当は彼女の祖母がここにやってくるはずだったのだけど、彼女が入院してしまって代わりに自分をここに置いてくれというのです。

 5人での生活が始まったけれど、レナは自分の身の上をほとんど話しません。3人は彼女が自分から言い出すまで聞くのは止めておこうと思っているけど、レナの様子はどうにも不安だらけなのです。

 3人もそれぞれに訳ありで独り身の人たちだから、将来に対する漠然とした不安もあるし、過去を未だに引きずっていたり、だからこその優しさを持っているのかもしれません。

 葵さんのお兄さんが幼くして亡くなって、そのせいでお母さんが自分に優しくしてくれなかったという思いを何十年も引きずってきたのは、辛いなぁと思います。わたしが子供だったころ、同級生の兄弟が亡くなって、そこのお母さんが情緒不安定になってしまったという話を何件か聞いたことがあったなぁと思い出しました。残された家族はずっと何らかの思いを持ち続けていくのでしょうね。

 最近は家族からの虐待というのが大きな問題になっていますが、暴力は振るわれなくても家族から愛されなかったという思いは、その人に一生ついて回ります。家族の役目って大事なのに、それをわかってくれない人がいるのは、やるせないなぁと思います。

 

 シェアハウスというと若い人のものと思われがちですけど、この物語のような高齢者だけのシェアハウスや、若い人と高齢者が混ざったシェアハウスというのもあったらいいなと思います。一人暮らしで一番大事なのが心の問題ですから、少しでも他人と関わる機会を増やすって大事だと思うのです。

2286冊目(今年306冊目)

 

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