『誰かがこの町で』 佐野広実
変だと思っている者はあまりいないかもしれない。
「この町ではそういうものなのだから、従うのが当たり前だ」と、周囲から言われ、そのうちになにも違和感を感じなくなる。
わたしにしても、特に生活に支障がないかぎり、なんとなくそうなっているのを認めているといってもよかった。
良子さんのようにあらためて口にすると角が立つからだ。(本文より)
あるコミュニティの中ではプライバシーなんてものは存在しなくて、その地域の常識の範囲でしか生きることができないっていう話はいろんなところで聞きます。
この本の中では、そういう狭い社会で起きた誘拐事件が発端となって、様々な過去がみつかっていきます。でも、それを表ざたにしようとすると、何処からともなく近所の人がやって来て圧力をかけていくのです。「そんな人間は、この町にはいない。変なことがあったら、それはよそ者の仕業だ」と。
「都会は昔を知っている人がいないから気が楽なんだよ。田舎では昔やった小さなことでも忘れずにいる人がいて、あそこの奥さんはどこから嫁に来たとか、どこぞの長男はせっかくいい会社に就職できたのにやめた」とかうるさくてしょうがない。親からも「30代半ばになって結婚してないなんて世間体が悪い」って責められるから、田舎に帰りたくないと、友人が話をしてくれたのを思い出しました。
本当は悪いことなのにそれを「見て見ぬふりをしている自分に嫌悪する」というのは、どうにもやりきれない話ですね。この物語の中に、そういう人が何人も登場します。自分が直接手を下したわけじゃないけど、結果として誰かを貶めたり、死に追いやったりしていることを自覚できない人が、今の世の中ではますます増えているんだろうなと思います。
そして、悪気はないのかもしれないけど、でも悪気がないからこそつらい言葉とか仕打ちってあるんです。「そんなこと、どっちでもいいじゃないですか」っていう価値観を持てない人たちの中で生きていくのは、ホントにつらいなぁ!
いっそ村八分にしてくれれば、よっぽど気が楽なのに、同調圧力をかけ続ける近所の人たちを突き動かすのは本当に正義感だけなのでしょうか?どうも違うような気がします。
そんなことを、いろいろと考えさせられる物語でした。
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