『甕の鈴虫』 竹本喜美子
寿々子の家は長野の寒天屋です。天草(てんぐさ)を煮溶かしてトコロテンを作り、それを寒い冬に屋外に吊るしておくと寒天ができます。だから、寿々子の家は冬になると大勢の男たちが働きにやってきます。
オメカケさんを囲っているお祖父さん、それが気に入らなくて口うるさいお祖母さん。若いころは文学が好きだったけど長男が戦死して、家の跡継ぎになったお父さん、台湾生まれで大雑把なお母さん、小さな妹。家に出入りする人が多くて、いつも賑やかで、裕福な家だけど、小学生の寿々子はそんな家をあまり好きではありません。
お嫁に行った叔母さんが病気になって家に出戻ってきた時に、家で療養するだけでなく、サナトリウムに入院したりしているから、この家はかなり裕福なんだろうなと思います。色白で手先が器用で、ステキな彼女のことを寿々子は好きでした。でも、家にいずらかっただろう叔母さんは、甕の鈴虫を持って駆け落ちをしてしまったのです。
昔は、この物語のように大勢の人でものを作る仕事が色々あったのです。寒天つくりも、リンゴの栽培も、お蚕さんの世話も、寒い地方だからこその仕事だったのです。
こういう仕事があったから、みんな生活ができていたのです。
リンゴの袋掛けのとき、袋にしている新聞の記事を読んでいた叔母さんは、外の世界へ出ていきたいと思っていたのかしら?
わたしの栃木の伯母さんが、電話帳の紙で袋を貼っていたのを思い出しました。
たった半世紀で世の中は大きく変わってしまったのですねぇ。
2327冊目(今年26冊目)
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