『チューリング』 B.ジャック・コープランド
チューリングは第二次世界大戦中にドイツ軍の暗号エニグマの解読に成功し、それによって第二次世界大戦の終結が早まったと言われています。
この本に書かれていた「チューリングが暗号を解読していなかったら、ベルリンに原子爆弾が投下されただろう」という言葉に驚きました。もしそんなことになっていたら、世界は大きく変わっていたでしょう。もしかしたら、その段階で日本は降伏して、原子爆弾を落とされることはなかったのかもしれません。
最初のコンピュータを製作したのはアメリカのノイマンであると、ほとんどの人が信じていますが、それは間違っているようです。コンピューターの原型を作ったのはチューリングだったのに、その研究成果を英国が隠してしまっていたというのが事実のようです。暗号解読などの機密情報を多く含む研究成果を表ざたにしたくなかったのが原因なのかもしれません。
チューリングが変わった人だったのは学問や研究の部分だけではなく、自転車やランニング好きの部分も、常人離れしていたのです。自転車のチェーンが外れる周期を憶えて、自転車のペダルをある一定の回数回したら、そこで調整をしていたとか。遠くの町へ行くのに、電車に乗っていく友人に着替えを持って行ってもらって、自分は走っていき、到着時間は数分しか変わらなかったとか。彼はオリンピックのマラソン選手になれるほどの走力を持っていたそうなのです。
チューリングは素晴らしい頭脳の持ち主でしたが、自分が警察に捕まるようなことをしているとは思っていなかったのでしょう。自宅に泥棒が入ったと警察に届けたまでは良かったのですが、自分の愛人である男性が泥棒の一味だという話をしてしまったのです。当時の英国では同性愛は犯罪です。相手が19歳の青年だったためにチューリングは逮捕され、薬品投与による「化学的去勢」を伴う保護観察処分になってしまったのです。
「暗号解読者アラン・チューリングに対する首相の謝罪 われわれは非人道的だった」。2009年のイギリスの新聞「ガーディアン」に、こういう見出しが掲載された。その記事には「ゴードンブラウン(イギリス首相2007~2010)は昨晩、第二次世界大戦の暗号解読者で565年前にゲイである罪で科学的去勢を受け自殺したアラン・チューリングに対して、政府を代表して率直に謝罪した」と書かれている。(第12章 終焉 より)
この英国の考え方がとても素晴らしいと思い、調べてみました。
2013年12月 エリザベス女王がアラン・チューリングに死後恩赦を与える
2014年3月29日 イングランド及びウェールズで同性間の結婚が可能になる2013年結婚(同性カップル)法が施行
2014年12月16日 スコットランドで同性間の結婚が可能になる2014年結婚及びシビル・パートナーシップ(スコットランド)法が施行
2017年1月31日 イングランド及びウェールズにおいて、過去に同性愛行為で有罪になり亡くなった人々が赦免された。また、有罪となり生存している人たちは、内務省に届け出ることで記録が抹消される。通称「アラン・チューリング法」
「アラン・チューリング法」と呼ばれる法律まで生まれていたのです!
そして、2021年に英国の50ポンド札の肖像にチューリングが採用されることになりました。
チューリングの後ろにあるのは、彼が設計した初期のコンピューター「ACE」です。
チューリングはコンピューターを計算だけでなく、音楽やAIにも応用することをすでに考えていたのだそうです。この天才のことをもっともっと多くの人に知ってほしいと思うのです。
〇関連書籍
マンガ エニグマに挑んだ天才数学者 チューリング
2310冊目(今年9冊目)
「科学道100冊2021」に挑んでみる!?に参加しています。
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