『生きるとは、自分の物語をつくること』 小川洋子 河合隼雄
臨床心理のお仕事は、自分なりの物語を作れない人を、作れるように手助けすることだというふうに私は思っています。そして、小説家が書けなくなったときに、どうしたら書けるのかともだえ苦しむのと、人が「どうやって生きていったらいいのかわからない」と言って苦しむのとは、どこかで通じ合うものがあるのかなと友うのですが、いかがでしょうか。
河合先生は人々の物語作りの手助けをする専門家として、物語と向き合っていらっしゃいます。私は作り手として意識的に物語を作っています。先生と私が、物語についていろいろ語り合えたら面白いかなと考えました。(小川 )
おっしゃったことは、私が考えていることとすごく一致しています。私は、「物語」ということをとても大事にしています。来られた人が自分の物語を発見し、自分の物語を生きていけるような「場」を提供している、という気持ちがものすごく強いです。
だからこそ、私のところに来られるような人たちは小説を読んで救われたり、ヒントを得たりするんでしょう。苦しみを経ずに出てきた作品というのは、その人たちには、魅力がないんじゃないかと思いますね。(河合)p46
心の病というのは、自分が思っていること、自分がしたいことなどを表現できないということなのですね。辛いとか嫌だとかという気持ちはあっても、それを具体的な言葉で表現できないから吐き出すことができない。自分の中にため込んでしまうということなのですね。
自分の物語を見つけられないから、河合先生の所へ行って何かを聴いてもらうのですが、時には何も言わすに時間が終わってしまうこともあるとか。でも、また来週きますか?と聞かれて「はい」と答える方にとっては、その時間は決して無駄ではないというという先生のことばを読んで、一つ学んだような気がします。
ボツボツと話すことばに、真剣に向かい合ってくださる方の存在が重要なのです。家族は往々にして押し付けがましい言葉を返してしまいます。いい加減に聞いていたり、理解しているふりをしたり、そういう相手のことを信じないのは当然です。話をしている人のテンポを無視して、早く何とかしようと急かせるなんて、一番してはいけないことなのですね。
「生きるとは、自分の物語をつくること」
なんとステキな言葉なのでしょう!
自分しか経験していない、自分だけの物語を綴れるのは、自分しかいないのですから、それを必死に書き続けましょう。今日も、明日も、ずっと、ずっと。
お二人の会話の中に、物語を作ることへの共感が溢れていました。
そして河合先生が語られた「博士の愛した数式」のお話は、心にしみました。
2321冊目(今年20冊目)
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