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『魂の退社』 稲垣えみ子

魂の退社
会社を辞めるということ。

稲垣えみ子(いながき えみこ)

東洋経済新報社

現代人は、ものを手に入れることによって豊かさを手に入れようとしてきました。しかし繰り返しますが、「あったら便利」は、案外すぐ「なければ不便」に転化します。そしていつの間にか「なければやっていけない」ものがどんどん増えていく。

それはたとえて言えば、たくさんのチューブにつながれて生きる重病人のようなものです。

チューブにつながれていれば、必要な薬や栄養が着実に与えられて命をつなぐことができます。しかし一方で、ベッドから起きだして自由に動き回ることはできません。(本文より)

 日本という国は、学校を卒業したら会社員か公務員になることを前提にして社会システムが成り立っています。えみ子さんのように大会社にいたら、社会保険のことも、税金のことも、ほとんど何も考えずに生きてこられたはずです。転勤のときには住むところを会社が探してくれたし、クレジットカードを作るのだって、住宅などのローンを申し込むとしても、何の問題も発生しないのです。

 もしかして、税金や社会システムのことを個人がわからない方がよいと国が考えているのではないかと邪推してしまうほど、日本のサラリーマンはそういうことを考えずに済むようなシステムになっているのです。

 ところが、会社を辞めたとたんに、厳しい現実を知ることになったのです。保証人がいなければ賃貸アパートを借りることもできない。親を保証人にしたくとも年金しか収入がない老人だとダメ、お姉さんに頼もうと思っても主婦だとダメ、保証協会に頼むには別途手数料がかかるなんて、今まで知らなかった~!新規にクレジットカードを作ることができない。社会保険料はすべて自分で払わなければならない。退職金にだって税金がかかる。これまでは会社から支給された携帯電話やPCを使っていたので、初めて自分用の携帯電話やPCを買おうと思っても、販売員の説明がちっともわからない(爆)

 あらあら、自分は会社という大きな傘に守られてきたということに、ちっとも気づいていなかったんだなぁ。これからは何でも自分でやっていかなければならないんだ。ということに気づいたのでした。

 面倒くさいことがたくさんあるけど、会社を辞めたおかげで得ることができた「自由」が何よりもうれしいと感じることができたえみ子さんは幸せな人なのだと思います。

 えみ子さんは50歳で転機を迎えたから、なんとか対応できたのだろうなと思います。これが定年まで頑張ってしまっていたら、会社から個人への転換はとてつもなく大変なことだったでしょう。もしかしたら挫折してしまっていたかもしれません。

 この話は決して他人ごとではありませんよ。明日は我が身と思って読んでみてください。ホントに知らないことが、世の中にはたくさんあるんです。

2352冊目(今年51冊目)

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