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『スナック墓場』 嶋津輝

スナック墓場

嶋津輝(しまづ てる)

文藝春秋

第96回(2016年)オール讀物新人賞「姉といもうと」

 淡々とした感じなんだけど、どこかクスっとしてしまう物語、7篇が収められています。

・ラインのふたり
 工場のラインで仕事をする霧子と亜邪。

・カシさん
 クリーニング店に下着まで出そうとする女性にビックリ。

・姉といもうと
 幸田文の小説に登場する女中に憧れている姉と、ラブホの受付の仕事をしている妹。

・駐車場の猫
 駐車場にやってくる猫に餌をやるのを楽しみにしている布団屋の奥さんは、駐車場の隣の店の人たちが気になっている。

・米屋の母娘
 母の家のそばにある米屋の店番をしている母と娘は愛想が悪い。

・一等賞
 アラオさんは町の人たちに大事にされてます。

・スナック墓場
 スナック波止場で働いていた女性たちが競馬場にやってきました。

 

 どうってことない日常なんだけど、不思議なこととか、変なことっていろいろあります。そこにずっといる人は慣れちゃってるから、そういうもんだって思っているけど、初めて出くわした人には衝撃的なことってありますよね。

 

 「一等賞」を読んでいて、昔のことを思い出しました。家の近くのアパートの2階に住んでいたおじさんが、時々、窓を開けて訳の分からないことを叫んでいたんです。ほとんどの人たちは「ああ、またか」って顔をして通り過ぎるんだけど、ひとりのおじさんだけが「この、キチ〇〇、うるさい!」って言い返すんです。すると2階のおじさんは「すいません」って謝って窓を閉める。とてもシュールな光景でした。

 乱暴に思える会話なんだけど、それなりなコミュニケーションが取れてたんだなってところに、アラオさんとの共通点を感じてしまったのです。

 「ラインのふたり」では、女性が多い職場だとああいう感じだということを思い出しました。無茶なことを言ってからんでくる古株のおばさん、そういう人に絡まれやすい気の弱い人。仕事のできない正社員、そういう人を顎で使ってるパートさん。非正規労働の世界にもヒエラルキーは存在しているんです。

 「姉といもうと」では、どちらかと言えば夢見がちなお姉さんより現実的な妹の方がしっかりしていたという所が面白いです。妹さんには障害があるけど、自分でできることはなんでもやるというバイタリティにお姉さんは押され気味です。でも、ふたりの仲の良さがなんだか心地よいのです。

 短編集では、最初の方に盛り上がる話があって、段々とじり貧になっていくことがよくあるんですけど、この本では、じわっとくる面白さが少しずつ増していく感じがいいなぁって思いました。

2365冊目(今年64冊目)

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