『空き家課まぼろし譚』ほしおさなえ
かつて貿易港として栄えた海市(かいし)という街には当時の建物がたくさん残っています。でもそのままにしていてはさびれるばかりです。そこを活用してくれる人を探すために「空き家課」という部署があります。そこで働く明さんは、真面目だけど気の弱い青年です。仕事で薔薇屋敷というお屋敷の調査をすることになり、そこで上司の娘である汀(みぎわ)さんと関わることになりました。
この4篇が収められています。
・ロイヤルサンセットローズ
・まやかし師
・オルガン奏者
・150年祭
汀さんには不思議な能力があって、それによって見ることができた昔の風景がいろいろなことを教えてくれるのです。今は誰も住んでいないけれど、かつてはそこに住んでいた人がいたのです。花を愛でる人、本を作る人、オルガンを弾く人、船に乗ってやってきた人。
誰も気づかなかったこと、みんな忘れてしまったこと、だけど、確かにそこでそんな出来事があったのです。
子どもの頃にオルガンを習っていたわたしは「オルガン奏者」に心惹かれました。オルガンは昔「風琴」と呼ばれていたのです。アコーディオンは「手風琴」。風を作って音を鳴らす楽器という意味です。これまで考えもしなかったオルガンの歴史を語る文章を読むうちに、昔のことをいろいろと思い出しました。
他の作品とはだいぶ趣が違うけれど、昔のものに対する優しさはやっぱり、ほしおさんらしいなぁと思う作品でした。
2393冊目(今年92冊目)
« 『動物会議』 エーリヒ・ケストナー | トップページ | 『佐藤優の地政学入門』 佐藤優 »
「日本の作家 は行」カテゴリの記事
- 『「顔」の進化 あなたの顔はどこからきたのか』 馬場悠男(2022.06.23)
- 『じゅんくんの学校』 福田隆浩 ささめやゆき(2022.06.14)
- 『何とかならない時代の幸福論』(再読)ブレイディみかこ 鴻上尚史(2022.05.26)
- 『東京の古本屋』 橋本倫史(2022.05.22)
- 『幻想映画館』 堀川アサコ(2022.05.12)
コメント