『佐藤優の地政学入門』 佐藤優
国境の大半が陸にあり、陸続きで他国と接しているランドパワーの国は、侵略したりされたりという歴史を持ち、土地に対する執着から、支配地域を拡大しようとする傾向が強く見られます。鉄道や道路と言った陸上輸送に優れ、国土を守るための強力な陸軍を必要とします。
一方、周囲を海に囲まれ、国境の大半が海にあるシーパワーの国は、他国から侵略された経験が少なく、土地の支配よりも交易によって得た利益を守ろうとする傾向があります。港と港をつなぐ海上輸送に優れ、商船や港湾施設を守るための強力な海軍を必要とします。
マッキンダーは、ランドパワーとシーパワーは宿命的に対立する性質を抱えており、両者は実際、歴史的に戦争や紛争を繰り返してきたことを指摘しています。(p27)
ウクライナは歴史的には帝政時代や旧ソ連時代を通じてロシアの支配下にあり、地政学的にはNATO勢力とのバッファゾーンに位置するため、ロシアのプーチン大統領はこれ(ウクライナがNATO側になること)を看過するわけにはいきません。(p62)
ヨーロッパとロシアの間に位置しているウクライナは、ロシアにとって大事な場所なのです。ここがないと大西洋につながる黒海に出ることができません。ここ以外に冬季に使える港がないのです。ウクライナは西側に渡してはならない土地なのです。
(地球温暖化で北極の氷がなくなったら)アメリカとロシアが、北極海を挟んで対峙することになるのです。
地球温暖化は、こういう問題もはらんでいたのですね。今は北極という大きな氷の塊があるからアメリカとロシアには適当な距離感があるのですが、これがなくなってしまったら、「すぐ隣にある脅威」をより強く意識しなければならなくなります。そして、北海油田をはじめ、北極圏には多くの資源があって、それを狙っているのだという話もあります。
フィリピンは、アメリカにとっては「アジアの入口」、中国にとっては「太平洋への出口」に位置します。
最近中国の海洋進出があちらこちらで問題になっていますが、中国から太平洋へ出ていくには、フィリピンの近くを通過するしかないのです。アメリカと中国の両方の思惑を天秤にかけて、フィリピンはうまく生きていこうとしています。これもまたシーパワーのなせる業なのです。
その国の地理的状況によって、生きていく道が全く違うという考え方は、これまで考えたことがありませんでした。でも、これを踏まえていくと、様々な地域で戦争やもめごとが起きている理由がよくわかります。
ロシアがクリミアを占領したのも、中国がアジアの各地の海で領海侵犯しているのも、自分の国にとっての出口を確保したいという行動だったのです。
だったら近くの国と仲良くすればいいのにという思考は、大国にはないのですね。
地政学はとても重要だということがよくわかりました。
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