『ギソク陸上部』 舟崎泉美
ユーイング肉腫というガンの一種が右足に見つかり、転移させないために右足のひざ下15センチで切断した颯斗(はやと)くん。彼は陸上部に所属していてオリンピックに出場するのが夢だったのに、その夢は絶たれてしまったんです。
リハビリを重ね、義足で学校に通えるようになったけど、クラスメートがみんな自分のことを「かわいそうな奴」という目で見ている気がしてやりきれません。陸上部にいてもしょうがないし、とりあえず学校へは行っているけど、これから何を楽しみにして生きていけばいいのかわからないんです。それに、もうないはずの右足の痛み(幻肢痛)を感じることがあって、つらいんです。
義肢装具士の近藤さんの勧めでパラアスリート陸上競技大会を観戦しに行った颯斗くんは、そこで一流選手の走りを見て感動したのです。そして、自分もあんなふうに走れたらいいなと思うようになったのです。
この小説を読んで気がついたのは、練習がどんなに大変でも、それは、板バネを装着して走ると決断するまでの苦悩と比べたら大したことがないってことです。
義足を人に見せないようにしたいから短パンで外出できないとか、義足をはずした足を誰かに見られたくないとか、障がい者だからって人から哀れみの視線を向けられたくないとか、そういう葛藤があるということに、健常者は気づかないんです。
そして本人も、そういう自分の気持ちによって、目立たないように生きていこうと思ってしまうから、次の一歩を踏み出すのに戸惑ってしまうのです。
颯斗くんは、クラスメートの女子に義足のことを聞かれたことで、少し気持ちが変わってきました。彼女にカッコいいところを見せたいなという気持ちが湧いて来たんです。こういう気持ちって大事だなぁ、親や先生から頑張れって言われるより、ずっとストレートに「やるぞ!」って思えるものね。
パラリンピックのときにパラアスリートが注目を浴びることはあっても、普段のスポーツニュースなどで彼らが取り上げられることは少ないですよね。もっともっと彼らの活躍や功績をみんなに知って欲しいです。
地域の小さなレースなども、より多くの人の目に触れるようになればいいなと思います。そうしたら、これまでスポーツに触れることがなかった人もやってみようと思うかもしれません。身体に障害があってもスポーツができるんだってことに、みんなが気がつけたら、それが本当のバリアフリーな社会の第一歩なのだと思います。
ころんでも、立ち上がる、そしてまた走る。
「スタートラインで前を向いているときが、私にとって、一番、カッコいい颯斗くんの姿なんだから」
この言葉を忘れずに、颯斗くん、これからも走り続けてね。
#ギソク陸上部 #NetGalleyJP
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