『なごり歌』 朱川湊
虹ヶ本団地は埼玉県との境に近い東京の東側にある大型団地です。昭和40年代にできたこの団地には学校も病院もスーパーマーケットも揃っていて、この団地内で日常生活に不自由はありません。最寄りの駅までがちょっと遠いけど、バスもあるし、自転車で駅まで行っている人もいます。
大きな団地だから、いろんな人が住んでいます。「遠くの友だち」の家族のように両親と子ども2人の4人家族というのが当時の標準でしたけど、一人暮らしの人も、老人だけの家もあります。団地内の公園では子どもたちが走り回ったり、自転車に乗ったり、手作りの飛行機を飛ばしているおじさんもいます。
あのころは、今とは随分違っていたのです。世の中がのんびりとしていて、今ほど他人を警戒することがありませんでした。
この物語は「三億円事件」の時効が近づいてきたころの話なので、その話題がいろんなところに登場します。そういう犯罪が珍しかったというのもあるけど、誰も怖がらせずにお金だけを持ち去ったという手際の良さが、みんなの興味を引いていたからなのかもしれません。
ちょっと怖いのかな?ちょっと不思議だな?でも、そんなことがあったかもしれない?と思わせながら展開していく朱川さんの作品は、やっぱり面白いのです。
表紙に描かれている動物は、「雷獣」という妖怪です。この子は誰かを探しているようなのです。
この7篇が収められています。
・遠くの友だち
・秋に来た男
・バタークリームと三億円
・レイラの研究
・ゆうらり飛行機
・今は寂しい道
・そら色のマリア
2416冊目(今年115冊目)
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